/あなたがたが豊かな祝福に恵まれますように 愛に満ちた年があなたがたに訪れますように /
「長距離ですか」「ずっとね。ただ、もうちょっと疲れた」「その年だと、ちょっときついっすよね」「あぁ、もう年だね。でも、引退もできない……」「そう、それがたいへんなんだ。引き受けた以上は、ちゃんと最後までやらないと」「でも、店長、ムリして体を壊したら、元も子も無いっすよ。店、潰れますよ」「……」「……この、ケーキ、おいしいねぇ」「あんまり売れないんすけどね」「上の連中は何を考えているのやら……」「でも、もっと上の人が、いつかなんとかしてくれるじゃないかな」「お客さん、ずいぶん楽観的っすねぇ」「いや、そうかもしらんよ、坂本くん。そうでも思わないと、やってけないじゃないか」「……」
「さ、じゃ、そろそろ」「あ、まだ仕事ですもんね」「ここで、こんなごちそうにあずかるとは思ってもみなかったよ、ほんとうにありがとう」「お客さん、ついてたっすね」「お体を大切に」「たいしたこともできないが、おふたり、ちょっと目をつぶってくれないか」「そのスキにミントとか、万引きするんでしょ」「おいおい、坂本くん」「いやいや、じゃ、こうしよう。あなたは私の右手、あなたは私の左手をにぎって、それで目をつぶって、頭を下げて」「こうっすか?」
あなたがたが豊かな祝福に恵まれますように
愛に満ちた年があなたがたに訪れますように
「おはようございます! 配送ですっ!」「あれ? え? 店長、さっきのお客さんは?」「あ、あぁ……」「お、おれ、万引きだなんて、あの人に、なんてこと、言っちゃったんだろ、冗談になってないよ。あやまってこないと」「……そうだな」「いま、お客さん、出て行きませんでしたか?」「えっ、いや、だれも」
「車の跡も無い……」「でも、ケーキは食べていったよ、コーヒーも飲んだ……」「手、暖かかったっすね」「あぁ、あれは働き者の手だな。さ、受け取りだ。坂本くん、トレイ、チェックして」「はい、店長! あ、配送さん、ケーキ、まだ一切れ、あるんだ。よかったら、ぜひ」
2016年のクリスマスのお話 「クリスマスケーキにロウソクはいらない?」
2015年のクリスマスのお話 「クリスマスの夜、サービスエリアで」
2014年のクリスマスのお話 「なぜサンタは太っているのか」
2013年のクリスマスのお話 「最後のクリスマスプレゼント」
2012年のクリスマスのお話 「サンタはきっとどこかにいると思うんだ」
(by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)
物語
2013.12.23
2012.12.24
2015.12.17
2016.12.15
2017.12.20
2018.12.21
2019.12.17
2020.08.01
2020.12.23
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。