帝国ホテルに学ぶ、コンシェルジュサービスの本質

　そこで先ずは、先述した「顧客に寄り添うサービスを設計する」ということが有効になります。

　そして「個別的事前期待」については、顧客データベースや顧客カードを活用して、お客様個人に合わせたサービス提供を行うことが有効です。顧客データベースは持っていても、なかなか顧客との接点で顧客満足向上のために有効活用できていないケースが多いようです。そこで今一度、現場での活用方法を見直してみると良いかもしれません。ちなみに、帝国ホテルの「帝国ホテル十則」という規範にも、個別的事前期待に応えることに繋がるものがあります。
・研究：お客様の趣味、嗜好まで研究してください。
・記憶：お客様のお顔とお名前を努めて速やかに覚えてください。

　また「状況で変化する事前期待」については、マニュアル化はもちろん、顧客データベースでも把握は困難です。そこで、次の2点が有効だと考えています。観察のポイントやサービスマインド・サービスの本質について教育やトレーニングを行う。そして、状況対応サービスの成功事例を組織で共有すること。帝国ホテルのロビーマネジャーの仕事の中でも、「困りの様子のお客様」「待ち状態のお客様」への対応は、状況で変化する事前期待に応えるサービスになっていると思います。

■ポイント３．現場への権限委譲
　３つ目はコンシェルジュサービスを提供するスタッフへの権限委譲です。コンシェルジュサービスでは、お客様からの例外要求に対応する必要があります。頂いた例外要求を受けるかどうか、お客様のひっ迫感などを感じ取りながら、その場その場で判断して行かなければなりません。その際に、毎回「上司に承認を得てきます。」ということでは、コンシェルジュサービスは提供できません。そこで現場に対して、一定範囲での権限委譲がなされなければならないのです。
　有名な話しですが、ザ・リッツカールトンでは現場のスタッフに1日2000ドルまでの費用を使って良いという権限委譲がされており、そこから感動サービス秘話が数々生まれています。（もちろん権限委譲以外にも、必要な要素はありますが。）
　このように、コンシェルジュサービスを提供するためには、経営側がどれだけ現場に対して権限委譲できるかも大きなポイントになります。

■個人任せなコンシェルジュサービスから抜け出す
　このようにコンシェルジュサービスでは「事前期待への共感性」「サービスの設計と仕組」「現場への権限委譲」の3点を押さえることが重要になりそうです。特にコンシェルジュサービスにおいては、マニュアル化が難しい気付き型サービスであることから、これまでは個人のセンスや経験任せになってしまっていた部分があるのではないかと思います。しかしコンシェルジュサービスを企業として提供する上では、組織的なサービス品質の向上と安定化が必須となり、いつまでも個人任せにはしていられないという課題をお持ちの企業も多いようです。
　そこで今回、帝国ホテルの一流サービスをサービスサイエンスを通すことで見えてきた「事前期待」や「サービス設計」といった考え方を組織的に理解して活用頂く事で、ワンランク上のコンシェルジュサービスを実現するために少しでもお役立て頂けたら幸いです。