就職が決まらない大学生や転職を求めている人たちが苦心する面接での問答。ここで生ずるコミュニケーションギャップがわかる例で見てみます。
私は学生向けにキャリアとコミュニケーションの講義を持っていますが、その中でビジネスにおける「言った、言わない」論争は全く意味をなさないことを説明しています。「採用されてから『聞いていた条件』と違っていた」は意味がありません。契約書にどう書かれていたかがすべてです。契約書、書面を交わさない以上、「聞いてないよー」という事態は想定しなければならないリスクです。
もちろん雇用契約の締結は労基法が定めた企業の義務ですが、実際には守られないことは多々あるのが現実です。未成年者が飲酒してはいけないのと同様、厳密にはだめでも野放しになっている現実はしかたがないのでは無いでしょうか。超氷河期という昨今の環境では、「雇用契約書を下さい」と正当な要求をしても、拒絶する企業だって実際にはある訳で、内定を取るためにはそのような企業の勝手な言い分も飲まなければならない不条理さは現実としてあるのです。
違法状態ではあってもこうした状況はただちに解決できる問題ではありません。雇用条件の厳格化を実施すれば、企業はリスクを恐れてますます雇用を絞り込むことでしょう。結果待っていることは雇用のさらなる縮小という事態になりかねません。
採用におけるトラブルでは、まだ被雇用者になっていない個人が、組織相手に戦うという「嫌なら他所へどうぞ」ということでいつでも打ち切れる武器を持った企業側が、このような環境下では圧倒的に強いのです。企業が悪い、社会が悪いという主張は間違っているとは全く思いませんが、政治や法律が解決出来る問題であり、喫緊な事態では言ってもしょうがないのでは、と思います。
コミュニケーションの要諦は「相手」です。自分の主張を伝えることは、コミュニケーションの片一方に過ぎません。相手がどのように受け止めるか、ここをいかに想定し、その想定に現実感を持たせ、説得する道を探っていく。そのためには現実的な落としどころ、妥協点を見出す努力が必要になります。正にコミュニケーションはロジカルシンキングによってのみ達成出来るのです。
コミュニケーションを成り立たせるには、「正しい・間違っている」ではなく、現実感のある説得、相手の納得が得られるかどうかがカギです。自ら主張したいことを伝えるのがコミュニケーションではありません。それは雄弁術であり、コミュニケーションの一部に過ぎません。相手が求めているものは何なのか、そこを読み解くことで、初めて現実感のある交渉ルートが見えてきます。話が通じないのはその「相手の事情」が見えていない状態といえるでしょう。
年末にNHKが放映した『日本のこれから「就職難をぶっとばせ!」』という番組は、今の新卒就職超氷河期を理解するには最も秀逸な番組でした。見ていた企業人は「あー、だから内定取れないんだね」と今の学生の問題点がよく見えたことでしょう。また勝間和代さん、海老原嗣生さんといった有名コンサルタントの方々の全力プレゼンテーションより、私が一番感心したのは、荒れる学生や激しく主張するコメンテーターたちを穏やかに仕切る、司会の三宅アナウンサーのファシリテーション能力でした。「相手」を意識して、確実にプロとしての仕事をしていたのは三宅アナウンサーだったと思います。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
コミュニケーション大学院講座
2012.04.14
2012.02.25
2012.02.06
2011.04.13
2011.01.11
2010.11.27
2010.09.07
2010.07.03
2010.04.17
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。