日本郵船が自社保有のコンテナ船を減らし、他社からのチャーター船に切り替える戦略を進めているという。今回は、この日本郵船の戦略転換をコスト構造の観点からみていく。
それに対して、固定費型のビジネスは、資産・設備の稼動が上がり損益分岐点を越えれば、変動費として出て行くコストが少ない分だけ利幅が大きく、一気に膨大な利益を上げることができる。また、自社の資産・設備であれば、急な注文への対応や機動的な価格設定が可能であり、短期的な経営の自由度が高いといえよう。ところが、売上が損益分岐点に届かず、資産・設備の稼動が上がらなければ、その分のコストがそのまま赤字となる。このような観点から、固定費型のビジネスはハイリスク・ハイリターン型のビジネスといえる。
ハイリスク・ハイリターン型のビジネスが悪いわけではない。また、利益を大きく上げるには固定費型のビジネスを志向せざるを得ない。投資家がそうしたビジネスを望むのであれば、固定費型のビジネスに進むしかない。外部から大きく資金調達をするベンチャーに、研究開発型も含めた固定費型のビジネスが殆どなのは、そうした資本の性格による。
日本郵船は、コンテナ船事業の超過利潤を追わない代わりに、顧客から荷物を集め他社に仲介するフォワーディング事業に注力するようだが、事はそう簡単に進まないだろう。フォワーディングの場合、日本郵船は中間流通であり、何らかの機能を果たさなければ、日本郵船を通す事がお客様から見た時に単なるコストアップ要因と見られかねない。特に、資産・設備信仰が強かったり、短期的な無理を聞いてくれるのを評価したりする日本のお客様を相手にするには、固定費型のビジネスの方が売上を上げやすいという側面もある。自社保有のコンテナスペースを売る場合であれば、一時的な値下げでの受注といった方法もあったが、他社のスペースであれば、そうもいかない。売るだけでなく、他社から有利な条件でスペースを調達する能力も求められる。
固定費型、ハイリスク・ハイリターン型のビジネスと変動費型、ローリスク・ローリターン型のビジネスとは、それぞれに一長一短があり、どちらが優れており、どちらが劣っているというものではない。ただ、調達するものが資産・設備そものもからキャパシティや能力に移ったように、収益の上げ方が大きく異なり、当然、ビジネスの力点の置き方もそれに応じて大きく変わってくる。ただ、それだけだ。
それでも、日本郵船の戦略は一つの判断としてあり得る。固定費型のビジネスの成立要件として、資産・設備を安定稼動させるだけの需要が見込めるということがある。荷動きが大きく変動し、かつ、これから需要の急回復も見込めない状況では、下手に資産・設備を抱えるよりもフリーハンドを保っておくというのは一つの考え方として理解できる。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
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