コスト低減のパンドラの箱を開けよう

2011.01.11

経営・マネジメント

コスト低減のパンドラの箱を開けよう

中ノ森 清訓
株式会社 戦略調達 代表取締役社長

モノにもサービスにも適正コストというものがある。つまり、購入金額の大きい目につきやすいアイテムだけを対象としたコスト削減、経費削減はやがては行き詰る。そうした状況を打破するには、これまで難しくて社内の誰もが手をつけなかったような取り組みに着手するしかない。

調達・購買業務、コストを巡っては、二つの考え方がある。コストはいつまでも下がり続けると考える派とものごとには適正なコストがあると考える派の二つだ。ちなみに弊社は後者の適正コスト派の立場を取っている。

後者の適正コスト派の思想を端的に表したツールにコストテーブルがある。コストテーブルは、モノ・サービスの価格を価格構成要素別に展開し、それぞれの要素毎の単価を明らかにしたものである。適正コスト派の立場に立つものは、この要素毎の単価についてそれぞれ適正コストがあると考え、これを積み上げることにより、どんなモノ・サービスでも、突き詰めれば適正なコストを予め算出できると考える。

精度の高いコストテーブルを買い手企業側で算出できるようになると、サプライヤの選定や見積の査定の精度が上がるというメリットがある。弊社ではあるお客様の調達・購買部門の年間の研修プログラムを請け負っているが、当然、コストテーブル作成のトレーニングセッションを設けている。

そのセッションで、演習として実際に自分の担当している材のコストテーブルを作成してもらった所、ある委託加工のカテゴリでは、50品目位程あったが、すべてのサプライヤが赤字となっていることが明らかになった。

原価管理のしっかりしている大手企業の方には驚きかもしれまないが、それ程驚くことではない。まだサプライヤに中小企業が多く、どんぶり勘定でやっているような材カテゴリの業界ではよくあることだ。

確かにこんな状態ならば、買い手企業の方でも、まじめにコストテーブルを作るより、「とりあえず、今年は2%下げてよ。」という交渉をしていた方が、これまでは効率的にコスト削減ができたかもしれない。

しかし、いつまでもそんなコスト削減が持続できるはずがない。これまでそうしたどんぶり勘定、赤字受注が続けられたのは、市場全体が右肩上がりであったからだ。全体の市場が大きくなる中であれば、サプライヤは一部の品目や顧客で赤字となっていても、新規顧客、新規品からの受注でそれらの赤字を取り返し、全体の帳尻を何とか合わせることでやっていくことができた。

しかし、市場の成熟やクレジットバブルの崩壊により、他の案件の赤字を補ってくれるような新規顧客、新規品はどんどん少なくなっている。それどころか、現在、黒字の既存取引でさえ、仕事を失った他のサプライヤとの過当競争に晒されつつある。このような環境では、サプライヤとしては、案件単位での採算管理を厳しくするか、赤字に耐え切れずに廃業するかの何れかしかなくなってきている。

次のページ問題を解決した後に残るのは、これまで手付かずだった故の...

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中ノ森 清訓

株式会社 戦略調達 代表取締役社長

コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます

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