前回、コスト低減のパンドラの箱を開けようという話をした。その翌日、正にそうした事例のニュースが飛び込んできた。三菱重工が、汎用資材の調達を一元化するという。
「三菱重工業は、これまで文房具や制服などごく一部を除き、国内の13事業所ごとに購入していた鋼板やネジ、潤滑油など各事業所が共通で使う汎用品を集中購買へ転換、調達窓口を本社に一元化する。原子力発電や航空・宇宙など受注品の製造に使う特殊な資材は、生産現場で臨機応変に対応するとの判断から、事業所ごとの購買を続ける。
年間の資材購入費9,000億円弱(同社単体)の内、約3,000億円分が今回の集中購買の対象とみられる。一連の調達改革で12年度には年100億~200億円のコスト削減効果を見込む。(参考:日本経済新聞 2011年1月12日 13面)」
これは、前回ご紹介した、コスト低減の対象を、単品での購入金額が大きなものから、工場のMROや少額資産品、研究所や開発部門などでの細かい品目の都度購買や広告宣伝・販促関連、人材派遣や業務委託などエンドユーザ主導で調達が行われており、現状把握すら出来ず成果を挙げる事が難しいと言われている品目カテゴリに転地するという手法だ。
誰もが空けたがらないパンドラの箱だけに、当然、こうした取り組みを進めるには困難が付きまとう。例えば、品目、取引先の登録名、コードが同じものでも異なっていたり、あるものは取引先の支店単位で登録されていたり、そもそも明細データがなかったりする。
また、品目数が膨大になり、購入金額自体も単品では小さくなり、一件々々の分析、調達、契約・取引条件の精査に掛けられる時間・手間も抑えざるを得ない。
とはいえ、こうした取り組みを先行して進めている企業があるように、雑多なデータを分析可能な形に整理するデータクレンジングといった技術や、雑多な品目を単品ではなくカテゴリー単位で調達するカテゴリーソーシングという手法が出てきており、取り組みに掛かる効果を得られるようになってきている。
それよりも、こうした取り組みを進めていく上での課題は設計、製造などのユーザ部門のいかなる変化にも反対する姿勢もあるが、最大のものは、他ならぬ社内の調達・購買部門、担当者であったりする。集中購買を進めようとすれば、当然、集中購買を進めようとする部門と、これまでそれぞれの事業所、拠点で調達・購買部門、担当者との間に対立構造が生まれやすい。
三菱重工での集中購買への取り組みは、何も今に始まった事ではなく、本社に集中購買部門を設けて10年位になるのではなかったか。ただ、「同社は事業所の独立性が高い『連邦経営』で知られる」と日経の記事に書かれる位、工場、事業所の権限が強い。弊社でも複数の方との付き合いがあるが、それらの方々と話していると、工場、事業所で一国一城という感触を得たものだ。中には、自社の集中購買の取り組みに対して、「俺の方が安く買っている。奴らにこの価格で買える訳がない。」と豪語する方もいて、雑談の中であったため口には出せなかったが、「そういうことではないでしょう。それでは、あなたがその材の集中購買の担い手になるか、そのノウハウを社内に伝播すべきではないか」と思ったものだ。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます