派遣斬り、派遣斬り・・・・という年末年始のニュースを繰り返し見ていたら、通称「5万回斬られた男・福本清三さん」のことを思い出した。 大ヒットした映画「ラスト・サムライ」で、主人公のトムクルーズを常に見張っている寡黙なサムライ役でブレイクした、もうすぐ66才という日本一の斬られ役である。 東映太秦映画村では福本さんの名を冠した時代劇ショーが上演されているくらい、知るヒトぞ知る存在である。
口減らしのために田舎から出てきて、やむなく働きだした撮影所。
そのちょい役発表の掲示板の前が「約束の場所」だなんて、決して羨ましい人生ではない。
福本清三さんも、最初から、その場所が「約束の場所」だなんて感じてもいなかったと思う。
若い頃は、悔しさや情けなさやいろんなことがないまぜになった「屈辱の場所」だったに違いない。
しかし、その仕事を愛し、美しい斬られ方にこだわり続けた結果、「屈辱の場所」は、特別な場所へと換わったのだ。
世間から見たら割に合わない仕事であっても、毎日毎日、魂を磨いて取り組めば・・・
いつしか仕事から愛され、「約束の場所」が与えられる。
「派遣斬り」の次は、正規雇用者のリストラ・・・。
6月末までには、失業者170万人という試算が出ているという。有効求人倍率も0.76まで墜ちている。この機に、「そもそも派遣なんて選ぶちゅうのが甘い。失業は自己責任だ」と息巻いても、それは、もうそんな問題じゃない。市場が、歪み始めているのだから。
だからと言って、「働くところがない」「住むところがない」ことに対して、一時的な一般倫理に基づく正義で、派遣法を見直したとして根本的解決はされないと思う。
何故なら、企この不況に派遣斬りをせざるをえない根底には、正規社員も、非正規社員も、働く者を法律で過剰に守れと叫ぶ市場から生まれた約束事が企業をがんじがらめにしている事実がある。
言い換えると「人間にとって仕事とは何か」という教育や議論を抜きにして、無意識のうちに「守られている労働者」だけが増えていった結果が、現在だ。
正規であっても、非正規であっても、「仕事」は、「仕事」だ。
『仕事が人をつくり、人を育てる。人は働きながら、その人となっていく。』
小関智宏さんの「仕事が人をつくる」(岩波新書)からの、一節だ。私は、この言葉に、凄く共感する。そのインタビュー対象である職人さんたちを見つめてこう言う・・・。
『生き方として器用に立ちまわれない人たちが、その手先から、社会には欠かせないさまざまなものを作り続けている。こんなケチな仕事、こんなつまらぬ仕事 と、わが身を呪いながらも、いざそのものに向き合えば精魂を込めてしまう。それが多くの職人たちの性(さが)だろう。』
今日も映画村で斬られる福本清三さん。
日々、旋盤の上で、精魂込めてもの作りに励む多くの職人さん。
生き方が器用でもなく、法律なんかに守られこともなく、
「仕事」で、我が身を守り、
「約束の場所」を見つけた市井の人達がたくさんいる。
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有限会社ペーパーカンパニー 株式会社キナックスホールディングス 代表取締役
昭和30年代後半、近江商人発祥の地で産まれる。立命館大学経済学部を卒業後、大手プロダクションへ入社。1994年に、企画会社ペーパーカンパニーを設立する。その後、年間150本近い企画書を夜な夜な書く生活を続けるうちに覚醒。たくさんの広告代理店やたくさんの企業の皆様と酔狂な関係を築き、皆様のお陰を持ちまして、現在に至る。そんな「全身企画屋」である。