派遣斬り、派遣斬り・・・・という年末年始のニュースを繰り返し見ていたら、通称「5万回斬られた男・福本清三さん」のことを思い出した。 大ヒットした映画「ラスト・サムライ」で、主人公のトムクルーズを常に見張っている寡黙なサムライ役でブレイクした、もうすぐ66才という日本一の斬られ役である。 東映太秦映画村では福本さんの名を冠した時代劇ショーが上演されているくらい、知るヒトぞ知る存在である。
その魅力を綴ったいくつかの書籍が出ている。
その中には、派遣斬りのニュースで騒がしい日本に、足りない何かを見つけることができる。語りかけるべき言葉がある。
『日本一の斬られ役・福本清三』(福本清三 聞き書き・小田豊二)の前書きにこんな一節がある。
人には誰でも「約束された場所」がある。
その場所に行くと、なんだか心が落ちつき、ここにいるために自分が生まれてきたと確信できる場所、それが「約束された場所」である。
神父なら教会、医師なら病院、教師なら学校、パイロットならコクピット、画家ならアトリエ、サラリーマンなら会社、そして主婦なら台所かもしれない。
そして、その場所を一生かけて探すのが「人生」だとするならば、福本さんの一生を象徴する居心地のいい場所は、いったいどこなのだろうか……。
とうとう、福本さんに前もって聞くこともできないまま、僕は、京都に会いに出かけることになった。
福本さんに、僕の願いが通じた。
「約束された場所」で、福本さんは「えらいこっちゃ」と笑いながら、初体面の僕を待っていてくれたのだ。福本さんが、最も心が安らぐ場所。それは、撮影所の掲示板の前だった。
「台詞なんかありますかいな。あれば、台本をくれますがな。台本なんか必要ない役やから、掲示板に私の名前が書いてあるんです。」
撮影所の掲示板を見に行くことは、その日だけのちょい役をもらうための大部屋俳優の日課なのだ。
その苦くて辛い場所こそが、日本一の斬られ役・福本清三さんの「約束の場所」だというのだ。
『おちおち死んでられまへん 斬られ役ハリウッドに行く』(福本清三 聞き書き・小田豊二)には、福本清三さんは、俳優になりたくてなったわけではないと記されている。
口減らしのために故郷を出て、たまたま働いたのが東映の京都撮影所だったくらいの程度だったらしい。何も知らない少年は、台本に名前も載らない斬られ役の町人や侍の役をもらうために、当日に貼り出されるこの掲示板を40年以上見続けてきたというわけだ。
そして、浪人とサラリーマンの暮らしを重ねて、彼は、こんなことを言っている。
「リストラされて、仕事がなくなってしまった元サラリーマンだって、それまで毎朝剃っていたヒゲを剃らなくなって、不精髭(ぶしょうひげ)も生えてくるじゃないですか。そうすると、なんだか心のなかまで不精髭が生えてくる。まさに、『浪人』の気持ちって、そういうことなんですね」と。
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有限会社ペーパーカンパニー 株式会社キナックスホールディングス 代表取締役
昭和30年代後半、近江商人発祥の地で産まれる。立命館大学経済学部を卒業後、大手プロダクションへ入社。1994年に、企画会社ペーパーカンパニーを設立する。その後、年間150本近い企画書を夜な夜な書く生活を続けるうちに覚醒。たくさんの広告代理店やたくさんの企業の皆様と酔狂な関係を築き、皆様のお陰を持ちまして、現在に至る。そんな「全身企画屋」である。