財務諸表が表さない人に関わる価値について引き続き考えてみたい。
日本では、買収や合併によって顕在化したのれん(営業権)、つまり、被買収企業の人に関わる付加価値は、20年以内で一定額以上を償却する形となる。これに対して、アメリカや国際会計の基準では、のれんを償却しない代わりに、のれんの価値を毎年評価し直し、価値が減少した場合は損失計上する形となる。
この問題はブランド価値をバランスシートに計上するかどうかという問題にも通じる。日本においては、トヨタやソニーなどのブランド価値はバランスシートには反映されない。
のれんの償却は、減耗や老朽によって価値が低下する建物等の資産の償却(減価償却)とは性質が異なる。のれんの価値の中核にあるのは人に関わる付加価値であり、それは必ずしも時間とともに減価するものではない。経験や学習によって価値が高まることもある。
のれんは「その効果が及ぶ期間」で償却されることになるが、このような表現は適切ではないであろう。あえて言うなら、買収企業が被買収企業の人に関わる付加価値を自社の付加価値に置き換える期間で償却する(バランスシートから除去する)と表現するのが適切であろう。のれんが償却される期間は、買収企業の理念や経営システムが被買収企業に導入されて、浸透する期間、あるいは、被買収企業の経営が買収企業の傘下で十分機能するために必要な期間ということになるであろう。
人に関わる付加価値をバランスシートに反映させるか、させないかの問題であるため、「反映させないのであれば、全額をまとめて一時償却する」というのも一定の合理性を持つ。しかし、それは、ある意味で、1株10万円の株式を突然100株に分割して、ある日から急に1株の株価が1,000円になってしまうのと同様な急性さがあるようである。
人に関わる付加価値がバランスシートに反映されないのは、その価値算定が困難であるからでもある。前述のA280、B500、C200の付加価値を持つ3人からなる企業の価値は、単純に980ではなく、A,B,Cの組合せ方、さらには、それらを組み合わせる土台、つまり、親組織の経営システムや有形・無形の資産の状況によっても評価が異なる。その他、組織が持つ取引先との関係、実績、歴史、信用、経験、ノウハウ、システム効率なども同様に、その他の要素との相互作用を加味して計算されることになる。
これらの価値を総合的に、いかに管理して、高めるかが企業の活動において重要になる。一時的な価値の引き上げ、表面的な価値の水増しは意味がない。それは、むしろ中長期的にはマイナスの評価を受けることになる。バランスシートが表さない価値の組合せ、管理、運営において、持続性や安定性についての視点も不可欠である。そのためのには倫理や道徳に対する配慮なども欠かせない。
【V.スピリット No.82より】
V.スピリット総集編5
2008.08.01
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