/「歌手」が歌っている声は商品であるように、「声優」がなんらかの役柄を演じている発話は、出演料を取っている有価の商品だ。しかし、ラジオなどだと、本業が歌手だろうと、声優だろうと、しゃべくりの内容の人柄を含めたパーソナリティとしての出演であって、その地声の語りの生の声質そのものを商品にしているわけではない。/
みんなが自分の声と似ている、と言っている、発話者を誤認させる、なんていう根拠も、どうも司法的には、シロウトっぽい。自分の声をサンプリングしてAI学習させた、という部分の立証を、いまの警察が「盗用」として採り上げてくれるとは思えない。かといって、じゃあ、それを民事として、自分で立証することが可能か、というと、これも訴訟相手が生成過程をオープンにしているのでもなければ、難しい。(フォレンジックで、ある程度の逆声紋解析をできたとしても、声紋は絶対的な訴訟証拠とはならない。それも、どのAIの、どのヴァージョンで、どんなプロンプトを使ったのか、まで、緻密に明らかにして、「犯行」を再現でもしないと、それでは、よく似ているのは、やつらが近年のAI魔術とやらで私の声を盗んだからにちがいない、と、あおばっているくらいにしか、第三者には聞えない。)
そして、上述のように、たとえ「声優」であろうと、商品として演じられた台詞ではない、地の語りの声質まで、自分のパブリシティとして主張できるか、というと、どうだろう。いっそ、タレントが出演外の日常を撮られてしまった写真のように、プライバシー権で争う方が、芽がある。もしくは、「今でしょ!」のような、個性的な決め台詞を商標登録できていたなら、権利主張もできるかも。
そもそも、それ、ほんとにサンプリングによるAI学習なの? すでにゼロベースから作られた人工音声のTtS(テキストtoスピーチ)も、いろいろ発売されている。自分の声だって、イコライザだの、ヴォイスチェンジャーだので、リアルタイムで、大人の低音にも、女性のキャピ声にもできる。また、前述のように、声質より、内容や話し方が似ているものを我々は「誤認」するのであって、モノマネタレントなんかがやっているのは、声質よりも、内容や話し方をあえてカリカチュアとして強調することで、似せて聞かせている。
(AIなんかかませなくても、骨格から、声質、歌い方まで、これくらい似ているやつは世の中にいる。Queen Extravaganza - My "Somebody To Love" audition)
この十数年の「声優バブル」と、その増長には、驚くばかり。だが、親世代の法外な年金にぶら下がっていた氷河期世代も、親たちが亡くなって、湯水のようにアニメにカネをつぎ込めなくなった。また、生の声優なんかに頼らなくても、声優のサンプリング抜きで、ゼロからの人工音声の生成も劇的に進んだ。似ている声は、ぜんぶオレのものだ、なんていうパブリシティ権の主張は、むしろ取り巻きファンに煽られた、根本的な時代錯誤の身の程の勘違いのようにも思えるのだが。
昔、襟なしのシャネルスーツが大流行して、他のデザイナーも追随した。記者たちに、どうするんです? と聞かれたシャネルは、好きにマネればいいわ、「敵たち」のおかげで、私がホンモノになれるのだから、と答えた。
純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、東京大学卒(インター&文学部哲学科)、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元東海大学総合経営学部准教授、元テレビ朝日報道局ブレーン。
解説
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大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。
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