/キプリング、ヒッチコック、ルイス・キャロル、そしてトーベ・ヤンソン。だれもがそれを狩ろうと奔走するが、だれもそれが何か知らないもの、それがスナークだ。しかし、スナーク狩りに駆り立てられる人々こそ、じつはスナークだったりする。/
とはいえ、そもそもいったい何が「狂気」か、定義が欠けているのだ。スナーク狩りにいく九人+ビーバー(叔父?)は、じつは、この狂気委員会メンバーのパロディで、狩る偏執的な医師や弁護士、篤志家たちと、狩られる狂人たちとどっこいどっこい。何を探しているのかもわからないまま、大真面目に迷走し続ける。キャロルは、自分を幻のドードー鳥に喩えるような自覚のある当事者として、これをからかわずにはいられなかったのだろう。
これに共感したのが、『ムーミン』で知られるトーベ・ヤンソン。アニメはかってに絵柄を変えてしまっているが、あれにはヒロインのノンノンとかフローレンとか呼ばれる「スノークのおじょうさん」が出てくる。トロール族とスノーク族は、もともとは見た目もかなり違う。というのも、ムーミンシリーズより前、戦時の1943年中にすでに、ヤンソンはスノークという、しかめ面の自画像キャラクターを立てており、ヤンソンがキャロルの『スナーク狩り』にイラストをつけているように、スノーク族は、じつはキャロルのスナークをイメージした、通俗社会の外の存在。ムーミンパパがシルクハットをかぶっているのも、キャロルの帽子屋の延長。ヤンソン自身、いろいろメンタルに不安定で、知ってのとおり、戦後にムーミンが売れるとすぐ、彼女の「彼女」と、離れ小島に籠もってしまった。
解説
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大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。