今、リクルート事件を翻って見ると、当時とは全く違って見える景色がある。本来なら概ね真っ当な行為に対し、世間の嫉妬、マスコミの煽り、検察の功名心が寄ってたかって一大疑獄事件に仕立て上げた、日本特有の情けない構図が浮かんでくる。
最近、自民党を騒がせている政治資金パーティー裏金事件。その枕詞によく出るのが「リクルート事件以来の」という言い方だ。
ではリクルート事件とはどういう事件だったのか。約35年前の事件なので、40代以下の人たちにとっては「昭和史」の一つに過ぎない、「よく知らないけど大がかりな疑獄事件だったらしい」程度の知識だろう。
ウィキペディアによると、「リクルートの関連会社であり、未上場の不動産会社、リクルートコスモスの未公開株が賄賂として譲渡された。贈賄側のリクルート関係者と、収賄側の政治家や官僚らが逮捕され、政界・官界・マスコミを揺るがす、大不祥事となった。当時、第二次世界大戦後の日本において最大の贈収賄事件、ひいては戦後日本最大の企業犯罪とされた」とある。
しかしこの表現は事の顛末を述べているだけで、必ずしも真実を突いていない。マスコミに戦後最大の贈収賄事件として扱われたのは事実だが、一方で戦後最大の冤罪事件でもあった可能性が高いものだった。
その捜査の不透明さは当時からくすぶっていた。事件の主役であった江副浩正氏本人が執行猶予期間を終えた後の2009年に『リクルート事件・江副浩正の真実』という自著で無実を主張していたが、世の注目を喚起するにまでは至らなかった(リーマン・ショックの翌年だったので、世間はそれどころではなかったこともあろう)。
事件後の1990年代になって日本に帰国した小生は経営コンサルタントとして、幾人かの経営者の方々に対し、この事件についてどう思われるかを尋ねてみたことがある。すると皆さん、「あんなのが有罪なんておかしい」「江副さんも真藤さんも、マスコミと検察にはめられたんだ」と口を揃えて仰る。
そこで若輩者の小生が「じゃあ経済人の皆さんが抗議すればどうですか」と水を向けると、「いや、検察に睨まれたら怖いからね」と腰砕けのご様子ばかり。当時はまだ、検察は「正義の味方」とみなされていたからだ。
分かっている事実はこうだ。1984年から主に1985年にかけて当時リクルートの会長であった江副氏とリクルートが、子会社であるリクルートコスモスの未公開株を、多くの有力政治家、官僚、通信業界有力者に幅広く譲渡(正確には有償譲渡もしくは第三者割当増資)した。1986年10月にリクルートコスモス株は店頭公開されており、その際に手持ち株を売却した者は大きな利益を得ている。
1988年になって、川崎駅西口再開発に絡む川崎市助役への利益供与疑惑が発覚したのをきっかけに、このリクルートコスモスの未公開株譲渡の事実と、多くの関係者が大きな売却益を得ていたことが報じられ、一大スキャンダルに発展したのだ。
経営・事業戦略
2020.07.15
2020.09.23
2021.04.20
2021.12.16
2022.09.28
2023.04.12
2023.07.19
2024.02.21
2024.08.21
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/