/どこかで戦争が起これば、関わらなかった国は、思わぬ好景気の恩恵を受ける。しかし、この好景気は自力で掴んだものではなく、それでいったんバラマキ政策が膨れ上がってしまうと、国民の自主性無き依存体質を生み、その後、国債増大と通貨下落に物価上昇、その破綻、緊縮管理経済と反政府暴動を引き起こす。/
2015年、ペロン党でも急進党(中道左派)でもなく、サッカーチーム会長で市民連合(中道右派)のマクリが大統領に。まず債権売却で資金調達して、どうにかデフォルトを解消し、国際資本市場に復帰。しかし、彼は古い自由主義者で、変動相場に戻したため、ペソは30%も下落し、インフレは30%を越えて高止まり。また、輸出入関税を引き下げるも、国際食品価格の低迷に加え、干魃による不作で、貿易収支も悪化。おまけに、18年に米国が国内金利を2%に引き上げたうえに、トルコで実際に通貨危機が生じ、アルゼンチンの再三のデフォルトが懸念されたために、中央銀行が金利を60%まで上げても、外資は米国へ引揚げてしまう。
このため、IMFから追加融資でなんとかしのごうとするが、2020年に大統領になったペロン党フェルナンデスは、これを停止し、徹底的な為替と貿易の管理で資金流出を留めようとする。また、ペロン党らしい公共料金の凍結、老人や子供への支援金、貧困家庭への食料券などの不況対策を行った。しかし、おり悪く、世界的なコロナパンデミックで、国際経済は低迷し、就任早々、デフォルトに。ロックダウン下で、もはや貧困層は国民の40%を越え、1ドル700ペソまで急落し、もはや略奪が日常化。ウクライナ戦争の裏側で、今年8月、来年からエジプト・エチオピア・イラン・サウジ・首長国連邦とともに欧米の対抗軸となるBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)へ加盟することが決まったが、内情はおよそ楽観できるものではない。
正義論だの、地政学だのもけっこうだが、世界にはもっと大きな歴史文明的な法則がある。すなわち、どこかで戦争が起これば、勝った側であろうと、負けた側であろうと、当事者たちはもちろん、それを支援した国々まで、救いがたく疲弊する。その一方、関わらなかった国は、思わぬ好景気の恩恵を受ける。しかし、この好景気は自力で掴んだものではなく、それでいったんバラマキ政策が膨れ上がってしまうと、国民の自主性無き依存体質を生み、その後、国債増大と通貨下落に物価上昇、その破綻、緊縮管理経済と反政府暴動を引き起こす。そして、次にまた世界のどこかで戦争が起きるまで、どうにもならない。
やたらカネを途上国にばらまきたがる政治家がいるが、それがほんとうに相手国のためになるのか、よく考えた方がいい。それはただ親族汚職と闇市場を横行させるだけで、それで結局、デフォルトや政府転覆暴動となれば、そのツケは、むしろ支援した国の方に帰ってくる。来年の拡大BRICSに関しても、とりあえずウクライナで戦争をやっている間は安泰だが、さて、その後、どうなることやら。いや、それ以前にそもそも、戦後、世界のどこかしらの戦争の恩恵で、いつもずっとうまくぬくぬくとやってきて、自分たちでなんとかする気力も機会も失ったこの国がどうなるのか、もっと心配した方がいいかもしれない。
解説
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大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。