アルゼンチン:明日を映す地球の裏側

2023.09.20

ライフ・ソーシャル

アルゼンチン:明日を映す地球の裏側

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/どこかで戦争が起これば、関わらなかった国は、思わぬ好景気の恩恵を受ける。しかし、この好景気は自力で掴んだものではなく、それでいったんバラマキ政策が膨れ上がってしまうと、国民の自主性無き依存体質を生み、その後、国債増大と通貨下落に物価上昇、その破綻、緊縮管理経済と反政府暴動を引き起こす。/

しかし、これが大敗戦で、1000%ものハイパーインフレ(通貨暴落)に陥る。83年、中道左派のアルフォンシンが大統領となって、軍政時代の「汚い戦争」の罪でビデラ将軍らを裁判に掛けたが、このことで軍部の反発を呼び、また、新通貨アウストラルと物価凍結や食料配給で一時的にインフレを抑え込んだものの、経済は停滞、物資は不足。賃上げを要求する労働組合とも対立することになり、ゼネストが頻発。おまけに新通貨の信用も急落し、ハイパーインフレが再燃。暴徒の略奪に対して、戒厳令で対応するも収拾できず、89年の選挙、ペロン党メネムに政権を譲る。

メネムは、社会主義(上からの経済振興・福祉拡大)的なペロン党に属しながら、前政権の統制経済を排し、米国レーガノミクス(81~89)に倣って、むしろ金融政策重視の新自由主義を導入。91年兌換法で1ペソ=1ドルとすることで強引に通貨と物価を安定させたうえで、民間の自由競争を促し、民間経済の再建を実現する。しかし、もとよりペソにドルほどの価値があるわけもなく、その実態はいかにもペロン党らしいバラマキ財政出動であり、それも、外貨が潤っていたペロン時代と違って、実際はIMF(国際通貨基金)とつるんだ莫大な対外国債に頼ったもので、いずれ破裂する時限爆弾だった。

とりあえずメネムは任期満了までたどりついたものの、その汚職体質や財政危機に、1999年の選挙では急進党(中道左派)ルア大統領が勝ち、緊縮財政で公共事業や公務員給与を削減したために、中産階級が没落し、ふたたびストや略奪が横行。国債も暴落し、資本も逃避。2001年末、ついに金融危機が表面化し、預金封鎖や融資凍結、デフォルト(債務不履行)を強行。各地で暴動が起きて急進党は退陣。

2003年、ペロン党キルヒナー(キルチネル)大統領は、まずデフォルトに陥っていた国債の評価額を三分の一に縮減する交渉をまとめ、中央銀行準備金で、いったんはIMFに一括返済。おりしもイラク戦争(2003~11)で国際食品価格が高騰して輸出が好調となり、これを背景に、安価な公共サービス、食品産業その他の補助金など、ペロン党らしいバラマキ財政が可能になり、経済は復興。しかし、これらは当然またインフレ(通貨下落)と経済格差を招き、ストが頻発。優秀な人材も多くが海外に流出した。政府は為替を操作することでインフレを抑えようとしたが、そのための外貨借入が増大し、14年に、ふたたびデフォルト(債務不履行)に陥る。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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