高齢者は“お荷物”なのか?

2023.03.08

ライフ・ソーシャル

高齢者は“お荷物”なのか?

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

成田某の発言に思うこと。

「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」。経済学者・成田悠輔氏の発言が話題となっています。議論するに値しない発言とはいえ、高齢者を単なる“お荷物”のように見ている、彼ほど過激ではないものの似たような考え方の人に、筆者が伝えておきたいことがあります。

まず、高齢者は現役世代の負担によって支えられる側になりますが、これは、高齢者が積極的に支えられる側に回ろうとしたのが原因なのではなく、そもそも、国としてそのような制度設計をし、それを放置してきたことが原因です。

超高齢社会になるのは何十年も前から分かっていたにもかかわらず、例えば、企業の「定年退職制度」を法的に容認し続け(欧米の多くの国では禁止されている)、年齢を理由にまだまだ働ける人を辞めさせ続けた結果、労働や収入を得る機会を失って、支えられる側に回らざるを得なくしたわけです。

今になって「リスキリング」などと言っていますが、何十年も前から中高年の再教育に予算を割いて注力していれば、生涯現役で働ける人はもっと増えたはずです。それに、リタイア後の社会参加の機会を提供する努力も不十分でした。ボランティアや地域活動、収入を伴う労働などに関する情報提供は、今もおおむね民間任せで、元気なシニアの居場所や活躍の場の不足は続いています。

要するに、高齢者には「できる限り助けを借りず、自立して暮らし続けよう」「世の中の役に立とう」としている人が多いのに、機会や支援を提供せず、“お荷物”のように扱うのはひどい話だということです。“お荷物”のようになってしまっている高齢者がいるとすれば、それは機会や支援を提供しなかった結果ともいえるでしょう。


●高齢者の病院通い、交通事故、体力や健康状態についてどう考えるべきか。

また、「高齢者が病院に行き過ぎるので、医療費が過剰になっている」とよく言われますが、それは、高齢者が好き好んで病院に行っているからではなく、病院が高齢者をターゲットとしたビジネスを強化しているからです。

国民全体の健康意識が高まり、病人が減っていくと、病気の治療だけでは病院経営が成り立たなくなってきます。だからまず、「正常」の基準となる数値を変えて、病人をつくり出します。

例えば、国民の4300万人が高血圧者であるとされますが、これは「高血圧」の基準を変えた結果です。次に、高齢期の加齢現象を「病気」と位置付けて“治療”の範囲を拡大します。加齢現象は病気ではないので、治療で治るようなものではありませんが、医師に言われれば病院通いをせざるを得ません。高齢者が病院に行かなくなったら、経営が危なくなる病院は多いはずです。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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