特に高齢男性の社会参加を促すには・・・。
高齢期の健康維持には、「運動」「栄養」「交流」が重要だとされています。中でも「交流」が大切です。人と話したり、何かに一緒に取り組んだりする機会が失われた孤独な状態を「社会的フレイル」と呼び、これが運動量の低下や食生活の乱れにつながり、身体や認知機能に悪影響を及ぼすようです。
ところが、交流が大切だと分かっていてもなかなかその機会に出ていけない人が、特に男性に多くいます。実際、筆者から見て、講演やセミナーの参加者、趣味やスポーツの会などで楽しむ人たちについて、参加者に占める割合は女性の方が圧倒的に多く、男性は多くて3割といったところでしょう。
高齢男性の社会参加や交流の促進を考えるとき、参考になるのが、和歌山大学教育学部の米澤好史教授が提唱している、「3つの基地機能」です。これは、子どもの愛着障害(幼少期に親などの養育者と情緒的な絆が形成されず、対人関係に困難が生じる状態)に関する理論なので高齢者に直接は関係ありませんが、大いに示唆的です。
3つの基地機能とは「安全基地機能」「安心基地機能」「探索基地」で、1つ目の「安全基地機能」は、「守られている」という実感が持てること。普通に暮らしていれば、ネガティブな感情を抱いてしまう場面が誰にでもありますが、そんなときでも「ここに戻ればストレスフルな状態を元に戻すことができる」と思えるような人間関係を意味します。
2つ目の「安心基地」は、落ち着きや癒やしが得られ、自己を肯定的に考え、前向きに行動してみようと思えるような場です。承認欲求が満たされるような場所や関係といってもよいでしょう。1つ目の「安全基地機能」が、心のへこみを治すディフェンシブな機能であるのに対して、この「安心基地機能」は心を膨らませてくれるような、オフェンシブな機能であるという違いがあります。
そして、3つ目の「探索基地機能」とは、新しいことをやってみようという意欲に応えられる場や人間関係のこと。安全で安心なところにとどまっているのではなく、そこから離れて何かに挑戦しようとする気持ちを理解し、行動へと導いてくれる場や人がいる状態です。
ここで重要なのは、この「探索基地機能」が働くためには、「安全基地機能」と「安心基地機能」の両方を備えている必要があることです。新しい取り組みによって生じたさまざまな感情を、安全基地や安心基地に帰って報告すれば、ネガティブな感情は解消され、楽しい気持ちは倍になります。安全基地がなければ探索するのは怖いでしょうし、安心基地がなければ探索しようという意欲は湧いてきません。
高齢社会
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。