高齢者とファミリーでは、そのニーズは大きく異なります。
先日、あるシンクタンクから「高齢者向け分譲マンションの資産価値について意見が聞きたい」という依頼がありました。
高齢者向けの分譲マンションはまだ数が少ないために、評価の観点や基準も共通の認識がなく、相場といったものが形成されていません。所有者や検討者、不動産業者、金融機関によってその評価がバラついているのが実態なのでしょう。このような状態だと、例えば売却しようとする際に、思わぬ低い評価をされてしまう危険もあり、一定の合意形成は大切なことだと思います。
とはいえ、モノに対する評価は人によって大きく違います。骨董(こっとう)品などを見れば明らかなように、コレクターにとっては垂ぜん物であっても、それをガラクタにしか感じない人もいます。高齢者住宅の価値は、それを使う高齢者のニーズに連動するべきであって、ファミリーマンションと並べて評価するのはナンセンスというもの。若い人たちには価値があっても、高齢者にとってはどうでもよいことがありますし、その逆もあるからです。
ファミリーマンションは「駅からの近さ」「学区」「階数」「眺望」「日当たり」「広さ」「間取り」「設備・仕様の質」といった観点で評価されます。しかし、高齢者には毎日の通勤や通学はありませんから、駅からの距離や学区には意味がなく、従って「立地」の良しあしに関する評価は、若い人とは全く違います。
また、若い人は広い家の方がいいでしょうが、年を取ると広さは面倒につながりますし、高齢者世帯には3つも4つも部屋は必要ありません。仕様や設備も、豪華さより、安全や分かりやすさが重要です。高齢者はコミュニティー(交流やつながりを通した安心、楽しみ)を重視する傾向にあるので、専有部より共用部、ハードよりもソフト(サービスやコンテンツ)が関心事となります。そもそも、若いファミリーには「家が欲しい(所有したい)」というニーズがありますが、高齢者にそんなニーズはほぼありません。
では、高齢者住宅をどう評価すべきでしょうか。
郊外の一戸建てから都心のファミリーマンションやタワーマンションに住み替えた高齢者が、しばらくすると嫌になって高齢者住宅に引っ越すという例は少なくありません。健常高齢者向けの有料老人ホームについても同じような話を聞きます。現役時代の家に不便や不安を感じるようになって住み替えようとする人は増えていますが、どのような住まいがよいのかをしっかり考えることなく、タワーマンションなら「今より便利」とか有料老人ホームなら「今より安心」といった具合に簡単に考えてしまい、住み替えてからようやく高齢期の住まいにおける大切なこと(価値、評価基準)に気付かれたのではないかと思います。
高齢社会
2022.12.01
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。