国の無策の象徴である「空き家問題」。ここまで深刻化するまで国は何をしていたのか、そして今何をしようとしているのか、さらに「何をしようとしていない」のか。もう一度よく考えてみたい。
ではこうした状況に歯止めを掛ける措置は執られているのだろうか。従来はほとんどNOだった。でもさすがに近年、何とかしなきゃという切迫感の下、国レベルでも限定的かつ小出しだが対策が出始めている。
2015年には空き家対策特別措置法が施行され、危険な状態にある空き家は、自治体が略式代執行できるようになった。相続放棄された物件については自治体が「相続財産管理人」などの仕組みを使って売却することもできるようになってきた。
でも実際にそうした措置が執られるのは都市部のごく一部に過ぎない。地方の資産価値のない物件は税金で措置しても大した額で売れないので「足が出てしまう」からだ。現実には首都圏でさえ対策は遅れ気味だ。実は、空き家が全国最多なのは地価が高いはずの東京都世田谷区で、何と5万戸もあるそうだ。
並行して、先の障害③の問題を減らすべく、2024年4月からは「相続不動産の登記」の義務化が施行される。法改正以前に所有している相続登記・住所等の変更登記が済んでいない不動産についても義務化される。
誰が相続したのかを誰でも把握できるようになることで、危険な状態にある空き家を何とかせよと所有者に働き掛けたい自治体はもとより、その空き家または土地を活用できると考える個人・法人等が所有者にコンタクトできる可能性は高まるだろう。
しかし相続不動産に限ることがボトルネックになろう。親族のはっきりしない高齢者が認知症になって高齢者施設に入ってしまえば、その所有空き家の正当な相続人は掴めないまま、誰も住まない空き家は放置されてしまう。こうした格好で放置される空き家はまだまだ増加すると見込まれているのだ。
国も遅ればせながら追加の検討を始めてはいる。まずは先の障害②(固定資産税の優遇措置解除によるディスインセンティブ)を主要因として放置空き家が発生する状況を減らすべく、管理状態が悪い空き家の修繕・建て替えを促すため、固定資産税優遇措置の見直しを検討し始めたそうだ。
現在、住宅用地は固定資産税の特例措置として、課税標準が200平米以下の場合は1/6、それを超えると1/3に軽減される。それに対し倒壊する危険や衛生面で有害となる恐れのある「特定空き家」については空き家対策特別措置法で対象外とする規定を設けている。
政府は今回、「特定空き家」の予備軍である「管理不全の空き家」も優遇対象から外す見込みだ。対象としては全国で約23万5千戸あると言われている。実質的な増税をすることで、早い段階で手入れすることを所有者に促し、危険な「特定空き家」にまで悪化することを予防したいということだ。この方向は間違っていない。むしろ遅すぎるくらいだ。
社会インフラ・制度
2022.08.26
2022.10.26
2022.12.21
2023.01.25
2023.02.01
2023.02.22
2023.03.15
2023.05.24
2023.06.14
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/