文系とも理系とも違うナゾの暗黒大陸、美大とそこで学ぶ学生の人材バリュー。決して美術やデザインだけに限らないことを知っていただきたいと前稿を書いたところ、予想外にアクセスをいただきました。調子に乗って第2弾、美大はどんな人材を送り出しているかを書きたいと思います。
・ポートフォリオから抜け出した美大生キャリア指導
私がキャリア教育で重視しているのは「お金の儲け方」です。夢を実現する方法はキャリア教育ではなく、まず一人で生活できる社会的自立がキャリア教育の最大の目的だと考えるからです。芸術だけでなく理系大学院の基礎研究、文学・人文学など、お金儲けと直結しなそうに見える学問であっても、学問は金儲けのためにあるのではありません。大学や院で身に付けるのは単なる知識ではなく能力とスキルなのです。
美大生へのキャリア指導と言えば、それはポートフォリオ指導を指すことが多いといえます。金融資産運用メニューや外資系マネージャーが持ってる書類ばさみでもなく、「作品集」と理解していただくのが良いかと思います。
習作がどんどん変化し、向上し、その表現力や視点が磨かれる過程が、作品を時系列で綴ったポートフォリオには詰まっています。ゆえに美大のキャリア指導=ポートフォリオ指導と呼べるほど定着したものです。私もクリエイターとしての能力を見る上で、最も大切なものであることに一切異論はありません。
ただし!
ポートフォリオだけがキャリア指導かといえば、それは違います。つまりクリエイターとしての能力評価には有効でも、先稿で述べたように、美大生のキャリア・就職先進路はクリエイティブワークだけに限らないからです。秋田美大は私のような美術の素人にキャリア科目を任せてくれただけでなく、何と美術学部3年生全員に履歴書演習を課す指導をさせてくれました。これは美大として画期的な教育だと確信しています。
・履歴書指導の意味
一般大学でもエントリーシートの書き方程度はキャリアセミナーなどで外部講師が説明するでしょう。しかし正規のキャリア科目ですので、必修授業を通じて美大生が全員履歴書を書くような講座はないのではないでしょうか。私はその際、履歴書書式もきっちりJIS様式準拠である大学履歴書を指示しました。
学歴などの情報だけでなく、ES的な記入項目もあるからです。「自己紹介書」として得意科目や課外活動、趣味特技なども記載してもらいます。アルバイト面接程度での履歴書は書いたことがあっても、こうした本格的履歴書を書いたことがある学生は、一般大学でもまずいません。美大生たちは苦戦しつつも課題を提出してくれました。
当然のことながら、履歴書は単なる就活の道具ではなく、法的にも意味を持つ有印私文書です。これはあくまで演習ですが、そうした重要な書類であり、勝手な書式変更や文字以外の表現は禁止であることなど細かいルールを、人事の専門コンサルタントとして説明しました。
関連記事
2022.05.08
2009.02.10
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。