トイレットペーパー・パニックから見る経済パラダイム転換

2020.03.05

ライフ・ソーシャル

トイレットペーパー・パニックから見る経済パラダイム転換

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/日本だけでなく、世界各国でトイレットペーパーが売り切れになり、パニックを起こしている。買い占めのせいだ、というが、そんな簡単な話なのだろうか。/

日本だけでなく、世界各国でトイレットペーパーが売り切れになり、パニックを起こしている。買い占めのせいだ、というが、そんな簡単な話なのだろうか。

たとえば、トイレ共同の安アパートが、部屋ごとのトイレに改築したとしよう。この場合も、住人数が変わらなければ、このアパート全体で一ヶ月に使われるペーパーの総ロール数は一定だ。しかし、以前は共同トイレにのみ適量のストックがあるだけで足りたのに、改築の後は、それぞれの部屋のトイレに余裕のストックが必要になる。

これと同じことが世界で起こっている。学校休業、在宅勤務によって、トイレは各家庭での使用にシフトした。総量は一定なのだから、学校や会社で使用量が減ったトイレットペーパーを振り替えれば足りるはずなのだが、それぞれの家庭で余裕のストックが新たに必要になっている。つまり、買い占めによって足りなくなっているのではなく、トイレが分散したことで、いま、一時的に実際の需要が爆発的に拡大しているのだ。

食料に関しても同様。同じ人口が一ヶ月に食べる総量は一定だが、共同の厨房を持つ給食や社食、外食から、家庭食にシフトした。このため、ストックの共有性が失われ、個々の家庭で新たにストックを持つ必要が生じた。とくに主食の米やパスタ、自分で調理できるレトルト食品やインタント食品の需要が、この新たな家庭ストックのために、実際の消費量以上に劇的に増大している。品切れを起こすのは、当然だ。

銀行や保険でも、近代は、全員が同時には必要としないという経験則から「信用創造」としてストックを共有し、社会的に融通することで、効率運用を図ってきた。製造業や販売業でも、サプライ(部品供給)とロジスティックス(運送搬入)の安定性に依存して、「ジャストインタイム」として、場所と資金を取るムダなストックをギリギリまで削り込むことで、徹底的に効率化してきた。

しかし、いま、これらが崩れようとしている。貸し倒れだらけの銀行では、いつ潰れるかもわからず、そうでなくても、預けておくだけで手数料が取られるようになる。保険も、将来性が不透明な株式などの運用で損失を抱えれば、いざというときに支払いを渋って揉めるところが出てくるかもしれない。部品や商品がほんとうに製造されるのか、それが予定どおりに搬入されるのか、当てにならなくなってきた。それなら、できるだけ現金を手元に残しておいて、部品や商品も、手に入るときに手に入るだけ手に入れておこう、ということになる。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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