いまどきの職業としての学問:若手に期待とチャンスを

2020.07.09

ライフ・ソーシャル

いまどきの職業としての学問:若手に期待とチャンスを

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/若手研究者において「仕事が無い」は、二十年来の大問題だ。すでにポストを得て給与を食む者は、学界の将来のため、非常勤や出版、マスコミの記事や出演などの仕事を譲り、若手に期待とチャンスを与えてあげてはどうか。/

 このコロナ騒ぎで、飲食店だの、芸能人だのが、仕事が無い、補償しろ、と、大声を上げて騒いでいたが、若手研究者において「仕事が無い」は、二十年来の大問題だ。すでにポストを得て給与を食む者は、学界の将来のため、非常勤や出版、マスコミの記事や出演などの仕事を譲り、若手に期待とチャンスを与えてあげてはどうか。

 理系若手の短期雇用と業績圧力については、いまはさておく。ここでの問題は、文系だ。若手研究者のポストが、ほんとうに無いのだ。そんなのは好きでやっていることなのだから、仕方なかろう、と切り捨ててしまうには余りある、もっと根深い構造的な問題がある。

 たしかに、大学の経営上の都合と学生の就職上の不都合で、一時期、大学院生を増やしすぎた。だが、バブルの後でさえ大学そのものは増え続けたのだ。にもかかわらず、かれらがポストを得られなかったのは、団塊世代の居座り、それどころか実務家教員の水膨れ、という異常事態が背景にある。

 新大学や新学部が認可されるためには、実績のある教授を集める必要があった。このため、バブル後の大学大増設期に、ちょうど定年間際の団塊世代が、ごっそり新しいところを占拠してしまった。そのくせ、象牙の塔の教員ばかりでは即戦力を育てられない、と言って、一般企業で役員になれなかったような半端な老人名士たちも「実務家教員」として大量に新設大学に流れ込んだ。

 かつてなら、自分はもう身を引くから、あとは君に任せた、と、指導教員が信頼できる弟子筋の若手に順にポストを譲っていった。ところが、団塊世代は、自分自身がさっさと定年の長い私立大学に再就職して、弟子たちは置いてけぼり。ハシゴを外され、非常勤の仕事すら、四苦八苦して探す状況。公募というのも、おうおうに縁故者が決まっている名ばかりのもので、その当て馬、捨て駒にもかかわらず、大量の業績コピーだの、同分野の教授の複数の推薦状を付けろだの、無理難題をふっかける。

 この生殺しが、延々と続く。これでメンタルをやられないほうがおかしい。実際、自殺にまで追い込まれた優秀な研究者も少なくない。少子化もあって、突然に大学都合で非常勤の契約更新さえも打ち切られ、ホームレスになった者もいる。私の前後の世代でさえも、数多くの有為の人材が、正規のポストを得られないまま等閑にされている。それ以外にも、どれほど多くの優秀な若手研究者が大学に潰され、学究に失望し、文化の希望の火を消すことになったか。この事態は、いくらなんでも、おかしくないか?

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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