2018.06.25
サービス価格競争の抜け出し方 ~日本サービス大賞 受賞事例に学ぶ~ |service scientist's journal
松井 拓己
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
日本のサービスの生産性が低いことに注目が集まっています。その原因のひとつが、これまでのサービス競争の仕方にあると思います。多くの企業では、スペックや価格での競争ばかり進めてきました。これでは、事業は疲弊する一方で、生産性が低いのも当然の結果といえます。今こそ、自己犠牲のサービス競争から抜け出すべきなのです。
事例②|フォレストコーポレーション
信州の住宅会社フォレストコーポレーションのお客様参加型の家づくりが、圧倒的な支持を受けています。それは次のようなものです。
――― フォレストコーポレーションは、国産の天然素材にこだわった最高等級の家をつくります。加えて、自分の家に使う木を、山に入って選んで切るところからお客様が参加することで、一生に一度の家族での家づくりを、感動の物語に変えているのです。家づくりは家族づくりなのです。 ―――
ハード面では、中小企業といえども大手に引けを取らない家づくりを実現しています。ただし、ハード面を磨いてスペックを高めたところで、大手競合他社に大きな差をつけることはできません。ハイスペックな家であることは、もはや当たり前になりつつあるのです。この状況において、選木から始まるお客様参加型の家づくりは、他社との圧倒的な差として顧客に認識され、事業を8年で3倍に伸ばすに至っているというわけです。
両者のサービスの共通点は、サービスの差別化や競争力強化の方向性のシフトです。
方向性をシフトして、スペックや価格競争から抜け出す
以前の記事取り上げましたが、顧客からの評価は、2つに分解することができます。サービスの「成果」に対する評価と「プロセス」に対する評価です。多くの企業が熱心に取り組んでいるのは、成果の評価を高めることでの差別化や競争力強化です。たとえば、メニューや機能の開発、コストパフォーマンスの向上が該当します。もちろんこれらの取り組みは重要ですが、問題は差が付きにくくなってきたことです。メニューや機能で差別化しても、すぐに他社にマネされて、あっという間に価格競争に追い込まれてしまいます。成果の評価を高めるアプローチでは、苦しいスペック競争や価格競争からは抜け出せないのです。
一方、旭山動物園やフォレストコーポレーションは、「プロセス」の評価を高めることで、圧倒的な差別化を実現しているといえます。行動展示で、動物園の中で経験できる価値を高めた旭山動物園。家づくりのプロセスに顧客が参加することで感動を生んでいるフォレストコーポレーション。どちらも、差別化のカギになるのは、メニューや機能ではなく、サービスプロセスで経験できる価値を高めることです。
ジリ貧のスペック競争や価格競争から抜け出すのであれば、サービスのプロセスの価値を高めることが有効です。少し極端な表現ですが、他社と同じメニューや機能しかなくても、サービスのプロセスの価値を抜群に高めることで、圧倒的に差別化できるのです。
これまでサービスの「成果」としてのメニューや機能、価格で競ってきたのであれば、新たな打ち手として、サービスの「プロセス」を磨くという方向性で、サービス競争力を高めてみる価値があるといえます。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
2022.10.17
2022.10.17
2023.03.07
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新