実は、サービスの現場には経験やセンスで磨いた価値ある知恵や工夫がたくさんあります。しかしそういった知恵や工夫は普段、個人の頭の中にしまい込まれていて、組織で活用できていないことがほとんどです。これはまさに宝の持ち腐れです。プロセスのモデル化を通して、こういった価値ある知恵や工夫を見える形にして、現場の経験知を組織の力に変えることが、サービス改革や真のCS向上において、極めて重要です。
例えばトラブル対応のプロセスをイメージしてみましょう。サービス提供プロセスでは、サービススタッフが1秒でも早く原因を究明し、トラブルを解消しようと作業に没頭しています。このときの顧客プロセスを定義してみようとすると、書けないことが少なくありません。では、実際にはお客様はどうしているのでしょうか。実は、状況を何も知らされずに待たされてイライラしているのです。このようにお客様への配慮が足らないことが原因で、トラブルは解消したにも関わらずクレームになってしまうことはよくあります。こういったことが、顧客プロセスを定義することで浮かび上がってくるのです。顧客プロセスに「何も知らされずに待たされている」と書かれていれば、お客様にこまめな状況報告をするなどの工夫が必要だと誰でもすぐに気付けるのです。
このように、サービスプロセスは、「サービス提供プロセス」と「顧客プロセス」を並べて丁寧に定義することで、お客様にとって重要なプロセスが抜けていないか?プロセスはこの順番で本当に良いのだろうか?と、サービスプロセスのあり方を見つめ直すことができるのです。
また、プロセスの分解の細かさにも気を付けたいところです。多くの企業ではプロセスの定義は、「打ち合わせする」「提案する」「販売する」「トラブルに対応する」といった粗さで定義されています。実はこれではプロセスの定義が粗すぎて、例えば上記で触れたような「トラブル解消作業中に中間報告を小まめに入れることが抜けていた」という気付きは得られにくいのです。こういった気付きを生み、現場の経験知を見える形にするためには、普段よりも一段階も二段階も細かくプロセスを定義することが必要になるのです。
プロセスの分解は、慣れているようでうまくできていないことが多いものです。いまいちど、丁寧に定義してみる価値は大いにあると思います。
さてここまでで、サービスプロセスを分解して定義することについて見てきましたが、プロセスの定義だけでプロセスのモデル化は終わりではありません。実は、サービスプロセスを定義しただけでは、我々が具体的にどんな努力をしたらお客様に喜んでいただけるのかが明確にならないのです。なぜなら、サービスの定義が示すように、サービス提供者がいくら努力しても、「お客様の事前期待」に適合しなければサービスですらないからです。つまり、お客様の事前期待次第で、サービスで努力すべきポイントが変わってしまうのです。
*サービスの定義については(2) 【連載サービスサイエンス:第2回】の記事をご覧ください。
そこで次回は、各サービスプロセスにおけるお客様の事前期待と、その事前期待に応えるためのサービス品質について定義することで、サービスプロセスのモデル化を完成させたいと思います。
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service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
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松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新