自動運転車と一般車(非自動運転車)が混在する過渡期は意外と長く続く。その間、自動運転車によって事故が誘発されるケースもあり得るし、事故処理と保険処理のルールは相当混乱しかねないと、今から注意喚起しておきたい。
これにより事故処理と保険処理のルールが大きく変わる(正確には、自動運転車が絡むケースがそれぞれ加わり複雑化する)と予想されるが、それが新たな論点を生むことになる。
事故/保険処理に関するルールは、信号の有無、優先の有無、速度超過の有無、直進・右左折など様々な要素の組み合わせにより決まる、かなり複雑なものだ。そしてそれは長い間の判例の積み重ねにより確立してきた。しかし自動運転車の登場でもう一度整理が必要になり、再確立まで相当な期間を要しよう。
信号がない交差点での車対車の出会い頭の衝突事故を例に挙げる。片方が優先道路でどちらも速度超過はなく、両者とも減速したが衝突した。今のルールでは、そんな状況でも優先車と劣後車の過失割合(%)は0対100ではなく10対90とされる。優先車のほうにも事故を避けられなかった「過失」があるという考え方だろう。
しかし優先車が自動運転車で劣後車が非自動運転車であれば、保険会社による事故補償の過失割合(%)は0対100に変更されるのではないか。つまり「過失の考えられない自動運転車でさえ避けられなかった事故なのだから、一方的に劣後車のドライバーが悪い」という話だ。
実際、事故の99%はその通り、一般車のドライバーの過失だろう。しかしそうした実例と判例が重なると、今だって思い込みに固執しがちの警察による事故現場の検証はおざなりになり、「仮に一般車(非自動運転車)vs自動運転車の事故が起きたら一方的に一般車のドライバーの責任としてよい」という不文律が一旦確立するのではないか。
しかし多様な交通現場に直面する自動運転プログラムに完璧なんてあり得ない。例えばたまたま直前に先行したトラックが油を現場路面に少々落としてしまったといった特殊な状況にあれば、自動運転車に(あらかじめ想定できない)おかしなスリップが生じ、それが事故の主要因の一つになることだって十分あり得る。
先に挙げた出会い頭の衝突事故の例は最もシンプルで、一番自動運転車の優位性を発揮しやすいケースだ。しかし優先側が非自動運転車で、劣後車が自動運転だったらどう考えるのか。優先が特になかったら…。一挙に悩ましくなるだろう。
そうした微妙なケースが実際に幾つか積み重なった上で、さらに「自動運転車vs自動運転車」の事故が起きれば、「本来あり得ない組み合わせ」として相当な物議を醸すだろう。鬼の首を獲ったように「あなたの身の周りに暴走『自動運転車』が潜んでいる」などと恐怖感を煽り立てるマスコミの姿が目に浮かぶ。ネット上にはありとあらゆるネガティブキャンペーンが書き込まれるだろう。
その結果、一旦確立したはずの事故処理と保険処理のルールが再び動揺し、混乱する可能性が高いのではないか。
以上のような混乱を避けるためには、自動運転車が市場に投入されて非自動運転車と混在する事態を想定した議論を今から十分に重ねておくしかない。
PS 誤解して欲しくないので付け加えるが、AI絡みの仕事が多い小生は自動運転の積極的賛成派だ。社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/