国民栄誉賞受賞者で、前人未到のオリンピック4度金メダルという、最強女性アスリート・伊調馨さんが巻き込まれたパワハラ問題。アメリカを端緒とする“MeToo”問題も広がり、今やパワハラ・セクハラはどの組織でも起こり得る問題です。パワハラ・セクハラ問題でよく相談を受ける立場で、組織のリーダーが取るべき態度を考えます。
1.やらかすのは協会理事長や学長・・・
ハラスメントを受けた被害者が何より傷付いているからこそ深刻な問題ではありますが、実際にこうした事象が起こるのは密室です。衆人環視に置かれない場所での出来事ゆえ、事実かどうかも問われます。このことが被害者を二次的三次的にも追い込み深い傷を負わせることにもなります。
一方で痴漢冤罪や痴漢冤罪を悪用した恐喝事件が後を絶たないように、真実が明らかでないことは、非常に取り扱いを難しくしているものでもあります。被害者が声を上げること自体非常に難しく、でっち上げや大げさ、自己責任批判といった返り血を浴びる可能性が常にあります。そんな時に重要なのは関係当事者だけでなく、組織の長。会社なら社長。協会なら理事長。大学なら学長です。
こうした組織のトップの認識が、大きく変化しつつあるハラスメント問題の潮流に着いて行けていないことで、発生した事件がさらに悪化するリスクとなっています。伊調さんの件ではパワハラ容疑が起きている日本レスリング協会強化本部長・栄和人氏が教授を務める、至学館大学の谷岡学長がやらかしました。
2.トップが絶対にやってはならないこと
谷岡学長は怒りをにじませつつ、内閣府への告発や週刊文春の報道を批判しました。もちろんパワハラなどあり得ないという主張からです。これがハラスメント問題において決定的な「やらかし」なのです。
自校の有力な教授を守りたい思いはわかりますが、組織リーダーはそれだけでは務まりません。組織を守る方が高い優先順位なのです。有力スタッフを守る以上に組織全体のリスク管理ができなければ、残念ながらトップとしての責任は果たせないでしょう。
ではどうすれば良かったか?現時点で栄氏を擁護したい気持ちはわかるにしても、それを告発というトラブル発生時に意見表明するのは論外です。どれだけ栄氏を擁護しようとそれを組織リーダーがやれば、まずもって事態は不利にしか働きません。組織リーダーが果たすべきことは事態の究明と適切な対処しかないのです。少なくともハラスメントを否定できる絶対的証拠を持っていない限り、それを表明したいという個人的心情は捨てなければなりません。
3.市長も理事長も
東京都狛江市の高橋市長は、「口を付けたグラスのお酒を飲まされた」「お尻をさわられた」というセクハラ告発を受け、議会で問題になりました。これについて市長は「異性への関心のもとにやったことではなく、一種の一家意識、狛江一家みたいな、家父長的な立場としてやったことなんだが、(女性職員に不愉快に感じられたとしたら)もしそういうふうに受け止められたとしたら、ごめんねと言うべきだと思う」と答えたそうです。ダメすぎます。
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2018.04.25
2018.07.02
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。