経営戦略構文100選(仮)/構文21:理念・ビジョンと戦略の関係

画像: ぱくたそ

2018.02.14

経営・マネジメント

経営戦略構文100選(仮)/構文21:理念・ビジョンと戦略の関係

伊藤 達夫
THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役

経営戦略の基本的な内容を解説していく内容です。構文という意味はバラバラに読んでもそれなりに意味がわかって読める、定型化されているということですが、読み物としてもそれなりに読めることを目指します。

たいていは事業領域に対して抽象的な記述がなされます。ビジョンはその組織がやりたいことをやると、どのような未来が実現するかといったことが書かれます。

『ビジョナリー・カンパニー』においても、理念とビジョンの定義について明確な違いは記述されていませんので、その会社がやりたいことが書いてあって、それが事業領域と目指す未来像を抽象的にせよ明らかにすると考えれば特に問題はないでしょう。

事業領域についての記述が理念・ビジョンにあるとすれば、それは全社の戦略を規定、制約します。事業領域、いわゆる「ドメイン」は全社の戦略を規定するスタートとなるケースが多いので、これはけっこう大きな意思決定です。

このことを初めに主張したのは1970年代に戦略計画や事業ドメインの研究をしたエーベルです。エーベルはドラッカーやアンドリュースに見られる感覚的な要素を批判し、事業の定義に影響を及ぼすような個別の意思決定をその都度経営戦略に基づいてするのならば、事業の定義は個別の意思決定の結果としてなされてしまうことになると言っています。

つまり、事業定義の考え方自体が理念・ビジョンの影響から明確に規定され、その規定にされたものをベースに、個別の意思決定をすべきだと言っているわけです。

今風に言えば、経営戦略の要素としてドメイン定義をしっかりして、そのドメイン定義に基づいて個別の事業領域に影響を与えるケースの意思決定をすべきだと言えるでしょう。

また、理念・ビジョンはドメインを制約するだけではありません。戦略的自由度も制約します。目指す未来像を明らかにすると、現状の価値観が自動的に規定されてしまいます。価値観とは、一般的に大事にすることとその優先度を言います。

未来に何を実現したいかが定まると、その実現したいことに関係があることが大事で、実現したいことに関係がないことは大事ではないことになりますからね。実現したいことと関係があることの中でも、実現したいことに対してより強い関係があると考えられることはより大事になります。つまり、優先度が明らかになるのです。

バーニーも指摘しているように、組織に価値観が存在する場合、それは打ち手の自由度を制約します。競争優位を築くための施策のうち、価値観に合わないものは選択できなくなるわけです。

ポーター的に「やることとやらないことを決めることが経営戦略」ならば、価値観は、やることとやらないことを、やりたいこと、実現したい未来の視点で決めてしまうのです。

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伊藤 達夫

THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役

THOUGHT&INSIGHT株式会社、代表取締役。認定エグゼクティブコーチ。東京大学文学部卒。コンサルティング会社、専門商社、大学教員などを経て現職。

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