企業は激しさを増す競争環境の中で自社の競争優位性や差別化点を精一杯アピールし、何とか顧客の関心をつなぎとめようと工夫している。そのための致命的に重要なポイントになるのが顧客接点だ。しかしそこにこそボトルネックが生じやすい。
さらに3日ほど時間がかかってようやく店からデッキを回収でき、買ってきた接続ケーブルで接続したところ、全く問題なく、録画してあったビデオを観ることができた。くれぐれも残念なのは、この一週間のロスで、家族が楽しみにしていた連続ドラマの最終回一つ前の回を多く見逃したことだ(リアルタイム視聴は我が家には難しすぎた)。
長々と我が家の「痛い」エピソードを伝えたのは、これが家電メーカーの戦略のボトルネックに関係するからである。
御周知のとおり、日本および世界では小売りの世界の主役が小規模店から大型量販店に、そして最近ではネット優位にシフトしている。そうした比較的新しい販売チャネルでは故障やトラブル対応に十分な対応ができないため、メーカー独自に問合せ窓口のコールセンターを拡充している。そこでは電話応答の待ち時間が延びる傾向にあるため、チャット問い合わせの採用も急速に拡がりつつある。
もう一方で、高齢化が進む日本市場では、修理や細々とした消耗品などを提供する身近な相談窓口として、地域に根差した系列ショップを既存家電メーカーは再び武器にできる可能性が強くなっている。件のS社の系列店はそういう戦略的な位置づけにある店の一つなのだ。
しかしこの記事で指摘したように、こうしたメーカーの戦略意図とはまったく異なる状況が現出している可能性がある。
S社のLINEによるチャット問い合わせの件は、「問診」技術が低レベルのためか症状の判断が適切でなく、「怪しかったらとりあえずメーカーにモノを送らせて、修理工場で対応すればいい」と安易に考えている節がある(今回判明したようにメーカーの修理工場もあまり賢明な対応をできないようだが)。これはメーカーとしてもコスト高になるし消費者の満足度を下げる方向に働きやすい。
今回のS社系列店の対応は地域のハブとして機能するにはあまりに知識や辛抱が足らず、「ややこしいのは取りあえずメーカーの修理工場に送ってしまえ」という姿勢があからさまだ。これもまたメーカーにはコスト高になるし、消費者の満足度を下げる「ダメ対応」の典型だ。
つまりメーカーS社の意図する「量販・オンライン販売の不備を補足するコールセンター(のチャット部隊)」も、「地域のハブとして身近で親切な中核ショップ」のいずれも機能しておらず、むしろメーカーの負担を増しながら消費者の不満を掻き立てるボトルネックとなっているかも知れないということだ。
こうした致命的なボトルネックの問題が大きくなる前に摘み取る方策としては、(昔ながらのやり方だが)専門企業に覆面リサーチを依頼するのが有効だろう。つまりメーカーに雇われている身分を隠しながら、機器故障で問い合わせするふりをして、自社の対応チャネル毎に定期的に巡回チェックするのだ。自社の顧客接点上での弱点を適時把握し、改善の手を素早く打つためには必要なコストだと思う。
経営・事業戦略
2017.04.26
2017.05.17
2017.05.31
2017.07.24
2017.12.19
2018.04.18
2018.05.16
2018.07.18
2019.03.13
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/