概念を起こす力・意味を与える力・観をつくる力を養う『コンセプチュアル思考』のウェブ講義シリーズ
経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、「イノベーション」という概念を広く普及させたことで有名です。彼はこの言葉を使う以前、「新結合」という表現を論文に使っていました。イノベーションは「技術革新」と訳されることも多くなっていますが、シュンペーターがもともと含ませたニュアンスは、異種のものを結合することで何かを生じさせるということです。また、古くは哲学の世界では、ヘーゲルが「止揚(アウフヘーベン)」という概念を提示しています。これも基本的には、矛盾する要素の対立から事物の発展は起こるという見方で、発展として現れた事物のなかに、もとの性質が高次元の形で保存されているという洞察です。いずれにせよ、異なるものが交わるところに何かが起こるのです。
◆1-b)足し算する
「A+B+C」と足し合わせていく複合化のとらえ方です。アプリをいくつも詰め込めるスマートフォン、いくつもの商品群を一つの建物に集める百貨店などはこの発想の典型です。上でみた「1-a:掛け合わせる」と異なっている点は、要素を合わせることで何か別のものに化けさせる意図はないことです。
◆1-c)引き算する
引き算の発想で革命的な商品を誕生させた例といえば、何と言ってもソニーの『ウォークマン』です。「あれも・これも」という複合化は、実はだれもが考えやすい発想で、その方向にいくとむしろ特長や個性を失うことにつながりかねません。コンセプトを明快にしたければ、むしろ大胆な削除を選ぶほうがよい場合があります。成功の鍵は「Less is more.」(より少ないことが、より多いこと)。能や茶道は極限まで動作を省いています。しかし、そこにこそ多くの情報が隠されており、豊かなおもむきがあります。『ウォークマン』にしても、単一機能に絞ったことでかえって、音楽を持ち運ぶという豊かな体験が可能になり大ヒットになったのでした。引き算の成功例として他に、立ち乗り自動二輪車の『セグウェイ』をあげてもいいでしょう。
いま、もしあなたが自分の担当する商品・サービスについての概念を精錬させたいと思ったら、まず「結合・分離」させてみることです。すなわち、
□〈担当商品・サービス〉×〈異種のもの〉→新しい何か
□〈担当商品・サービス〉+〈異種のものA〉+〈異種のものB〉→新しい何か
□〈担当商品・サービス〉-〈要素A〉-〈要素B〉-〈要素C〉→新しい何か
このようにしなやかさをもってコンセプチュアルに考える能力は、一部の人にかぎらず、だれしもみずからの仕事において必要なものです。担当する商品・サービスをつねに向上させていくためには、つねに自分のなかのコンセプトを柔軟的に見なおし、精錬していく思考力が不可避だからです。
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ビジネスパーソンのための新・思考リテラシー『コンセプチュアル思考』
2016.10.27
2016.11.21
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。