従業員の健康と企業の業績に因果関係があるとするのは、誤りである。
時短や有給休暇の取得率といった無味乾燥な目標ではなく、ワークライフバランスといった曖昧な表現でもなく、「健康経営」は分かりやすいし、響きがよい。だから広く受け入れられつつあるのもよく分かるが、健康と組織活性化や業績向上との関係も、健康診断やそれに基づく治療や指導が健康の維持・増進に役立っているのかどうかも不明なのである。したがって悪くすれば、「健康経営」は従業員が健康になるわけでもなく、組織が活性化するでも、業績が向上するでもなく、単に緩い労働環境とオイシイ処遇が広まっただけに終わってしまうかもしれない。そうすると、会社が従業員の健康にかけるコストは減るどころか増えてしまい、喜ぶのは医薬業界だけということになってしまう。
もちろん、これとは逆に「健康」を旗印にして、労働時間の短縮を合理的に(サービス残業などに頼ることなく)進めるべく、役割や仕事の分担の見直し、無駄の排除、リーダーシップの進化、処遇システムの変更などが行われ、「働き方」を変えるきっかけになる可能性もある。働き方を変えれば、健康が実現するかどうかは別にして、組織の活性化や業績の向上は期待できるだろう。なので、「健康経営」は耳障りが良く、分かりやすいお題目として機能させておけばそれでよく、いかに働き方を変えるかという本質に心血を注ぐべきである。健康経営という流行に乗っかって、本気になって健康を追い求めても実りは期待薄だ。
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組織というもの
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。