2015.11.30
職場のウェルビーイングを考える (3) - 実践編:自己表現の機会を
おおばやし あや
SAI social change and inclusion 代表
会社としてのウェルビーイングとは、「できないこと」に注目するのではなく、その人の強みや「できること」に着目しエンパワーメントを与え、失敗やつまづきを折り込む寛容さも持つことだと著者は考えます。では、メンタルケアの問題も押さえながら、一体どのように実行すればよいのでしょうか。いくつかのキーワードと共に、方法を提案させて頂きたいと思います。
4.労働者の権利
社員の心の問題に踏み込む難しさを初回から述べさせてもらっていますが、ではウェルビーイングの理念で社員の健康や幸福、やりがいなどを目指すとき、どういう立場に立ち、会社として関われるところと個人の線引きはどうすればいいのか、という疑問があるかと思います。
ここでは何より「フェアであること」が大切であり、そのために「働いている人の権利を守る」という立ち位置で取り組まれることを強く推奨したいと思います。
精神論や感情論ではなく、「法律のもとに、組織は従業員の権利を最大限保証する」。会社の持つ力に比べると、個人の力は非常にか弱いものです。労働に関する法(労働基準法、労働安全衛生法、労働組合法、労働関係調整法など)は、全ての従業員が組織の犠牲になってしまわないよう、彼らを守るために制定されており、ある意味で会社の義務とは、これらの法律を守り労働者の人権を尊重するということ以上にないように思います。
この記事で触れていることに関する条項が労働安全衛生法にありますので、いくつか抜粋します。
(健康教育等)
第六十九条 事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。
2 労働者は、前項の事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとする。
(体育活動等についての便宜供与等)
第七十条 事業者は、前条第一項に定めるもののほか、労働者の健康の保持増進を図るため、体育活動、レクリエーションその他の活動についての便宜を供与する等必要な措置を講ずるように努めなければならない。
(事業者の講ずる措置)
第七十一条の二 事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければならない。
一 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
二 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
三 作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備
四 前三号に掲げるもののほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置
労働基準法や労働安全衛生法等と実情と照らし合わせ、すべきことをする、というのがウェルビーイングにあたって遂行されるべき会社の立ち位置です。同様に、労働者も健康促進につとめ、健康診断の結果を報告するといった様々な義務を守らなければなりません。
その姿勢を見せた上で「あなたはこの会社のために何ができるか」を問うのが、フェアであり、働きやすく、人を活かせる会社の在り方なのではと考えます。そこには共栄共存を目指すまっとうな契約があるだけであって、理不尽な犠牲を強いることも、甘やかしもありません。(ただし日本で働かせてもらっていた時、この「フェアさ」に疑問を感じたことがあり、これもまた別の機会に書かせていただければと思います。)
ともかくこういった法を頼りにすれば、1の現状把握で社員側から問題が見つからなかったとしても、職場環境や健康保持促進などについて改善を考える余地はあるでしょう。オフィスにマッサージチェアや昼寝スペースを設けるというようなアイデアも、上記の事業者の講ずる措置からは理に適っているはずです。あらたに産業医や産業カウンセラーと提携する、プロの力を借りるというのも、もちろん有効な選択肢のひとつです。
私自身、社会問題に(細々ですが)取り組む立場にあるものとして、立ち位置に迷った時に頼りにするのは、「世界人権宣言」や「児童の権利に関する条約」など人権に関する力のあるもので、例えば"すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利と について平等である。"という文言は、人をサポートさせてもらう者としても、いち人間としても、支えられている安心感があります。日本の労働法も、「守らなくてはならない厄介なもの」ではなく「自分を守ってくれるもの」「会社の在り方を支えてくれるもの」として発想転換をしてつきあえば、頼もしい面も多くあるに違いありません。
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おおばやし あや
SAI social change and inclusion 代表
Well-beingの実現をめざす起業家として、日本、フィンランドで主に労働者福祉分野で講師や研究開発者として活動。フィンランド国家認定ソーシャルワーカー。 「個と全を活かす」をテーマに、コミュニケーションツール開発や、多くの関連ワークショップ、研修を全国のさまざまな大学、企業、団体さまにて提供させて頂いています。