2015.11.30
職場のウェルビーイングを考える (3) - 実践編:自己表現の機会を
おおばやし あや
SAI social change and inclusion 代表
会社としてのウェルビーイングとは、「できないこと」に注目するのではなく、その人の強みや「できること」に着目しエンパワーメントを与え、失敗やつまづきを折り込む寛容さも持つことだと著者は考えます。では、メンタルケアの問題も押さえながら、一体どのように実行すればよいのでしょうか。いくつかのキーワードと共に、方法を提案させて頂きたいと思います。
3.自己表現
前項の質問項目にもありますが、人が組織の中で不満や抑圧を感じている時というのは、「自分が認められていない」「自分を活かしきれていない」「評価されていない」と感じていることがとても多いです。ただ給料をもらうだけでは人は満たされず、「組織のために自分にしかできない働きをして、その努力や成果を認めてもらいたい」ものなのです。
人を活かす、個性を表現してもらうにあたり、コミュニケーションは必須であるものの、それは単に言葉や文章によるものだけに限定しません。大人になってからは尚更、「口が達者な人」「とにかくしゃべる人」が目立ってしまったり、場の主導権を握ってしまいがちですが、「しゃべらないからといって何も考えていない、主張がないというわけでは決してない」ということ、「声なき人の個性を無視してはいけない」ということを、私たちは努めて意識しておくべきでしょう。無口でおとなしい人が実はこれがとても上手だった、面白い個性を持っていた、と知られることで評価がガラリと変わるといった物語は現実にもたくさんあります。
たとえば、日本に輸入されて久しく経つNLP(Neuro-Linguistic Programming 神経言語プログラミング)では、新しいことを学んだりコミュニケーションをするにあたって脳で優先される五感的情報が人それぞれ違うため、その特性を見極めれば効率が良くなるということを述べています。
NLPの中のVAKモデルは、人には大きく分けてVisual(視覚) Auditory(聴覚) Kinetic(運動・体感)刺激のタイプがあると示します。視覚系の人であれば色形、イラストやグラフなど見える情報から学びやすく、コミュニケーションにおいても表情や絵などを通じた視覚的なものを好む…といったものです。
転用して、対話において「ただ話すのが苦手な人」のために、例えば聴き手が聴いた情報を図にしながら話を進めるといった気づかいも可能でしょうし、レクリエーションなどで以下のように全ての五感タイプをフォローしたり、それぞれの興味が見つかりそうな催しを行うこともお薦めします。
- 絵や書を製作する
- 写真や動画作品を作る
- 演奏をする
- 曲をプレゼンする
- スポーツをする
- 寸劇や芝居を作る
- ゲームをする
- どこかへ行く
- 部活動を作る(料理、陶芸、映画、絵描き、軽音…などなど)
もちろん、これらはどのようにでもアレンジ可能です。こういったエクササイズを行うことで誰もが自己表現の機会を得られ、「あの人あんなにすごいところがあったんだ!」「自分はこんなことができるんだ」とお互いに認め合い、自信、あらたな関係作りにもつながる絶好の機会になります。
このように、ウェルビーイング目的で芸術や創造(絵、音楽、ドラマ、劇、ゲームなど)を使用し個人やチームのエンパワーメントを図るという方法(クリエイティブメソッズ)は、特に高額の医療費がかかる国々では、心の病気の予防や職場の関係改善として広く発展しています。芸術や創造の力を借り、人の心に深く踏み込むことなくポジティブな自己表現の形で行われるため、敷居が低いわりに効果がある、何より楽しいというのが特徴でしょう。
実際私自身も、フィンランドに単身乗り込んで学び働く中で、ほぼ常に劣等感にまみれて毎日へこんでどうしようもなかったのですが、授業で体験したこれらのエクササイズで自分を表現ができ、それを周囲に認めてもらったことで、大変救われた経験があります。またこちらでは同様に労働者福祉の見地から、会社で年一度以上のwell-being dayを設け、社員のために何らかのレクリエーションを行うことが義務付けられています。
実際、スポーツのレクリエーションや部活動などは、昔から実施されている会社も多くありますね。そこで素敵な一面を見せられる人々がいるのならば、これはちゃんと意味のあることです。本格的に行わなくても、小一時間程度でできるエクササイズのアイデアは検索すればたくさんありますが、この分野は私が特に取り組んで事業にもさせて頂いていることなので、また改めて手法を色々紹介できればと思っています。
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おおばやし あや
SAI social change and inclusion 代表
Well-beingの実現をめざす起業家として、日本、フィンランドで主に労働者福祉分野で講師や研究開発者として活動。フィンランド国家認定ソーシャルワーカー。 「個と全を活かす」をテーマに、コミュニケーションツール開発や、多くの関連ワークショップ、研修を全国のさまざまな大学、企業、団体さまにて提供させて頂いています。