メガネのネット通販で業界に革命を巻き起こす米ウォービーパーカー。そのブランド戦略の要は「感情体験」。
ニューヨークのファッション・ウィークの直前に、ニューヨーク公共図書館を舞台に仕掛けたゲリラ・マーケティング。格調高い読書室に訪問客に混じって座るのはウォービーパーカーのメガネをかけたモデルたち。一定の時刻になり、読みふけっていた本を一斉に高く上げると、表紙にモデルがかけているメガネの名前が披露される。このゲリラ・イベントには、ファッション・ウィークに向けて感性を研ぎ澄ませているファッション誌の編集者たちが招待され(事前に何が起こるかはもちろん知らされていなかった)、奇想天外な趣向で話題をさらった。
ネット通販会社でありながら、米国各地に9軒のショールームを構える。在庫は置かず、顧客は商品を試着して、気に入ったものが見つかれば店に置いてあるiPadで発注する。ものを売るため・買うための店舗ではなく、ブランディング媒体、そして、ウォービーパーカーと顧客の触れ合いの場としての店舗だ。ロサンゼルスのダウンタウンにある「ザ・スタンダード・ホテル」のロビーにはウォービーパーカーとホテルが共同でデザインした古き良きアメリカ風のニューススタンド(新聞や雑誌を売る街角の店舗)がある。新聞や雑誌の傍らにウォービーパーカーのメガネやサングラスが並べられている。クラシックで、お茶目で、インテリ。ウォービーパーカーの顧客層が求めるイメージが見事に集約されている。
また、アメリカではお馴染みの黄色いスクールバスを改造した「移動店舗」を常時走らせ、全米各地を回っている。ハンドル部分にトレイを備え付け、メガネを陳列できるようにした改造自転車で本社界隈を旋回したりもしている。
昨今の若手ネット企業の類にもれず、ウォービー・パーカーも、設立当初から「企業文化」を成長戦略の核として位置付けてきた。ウェブサイト上で年頭に発表する「年次報告書」も今年で二年目を迎えた。
「年次報告書」といえば、通常は上場企業が財務情報などを発表するためのものだが、ウォービーパーカーの「年次報告書」には彼らの企業文化を象徴する「豆知識」がたくさんつまっている。社員数などの基本情報に始まって、社員の平均通勤時間、ウォービーパーカーの本社で一年に消費されるサラダの量(注:同社には無料の社員食堂がある)など風変わりなものもある。
ネット通販という業態が台頭した90年代には、ネット通販の優位性は何より「コスト効率」と考えられていた。コストをそぎ落とすために、ひたすらネット上の仕組みに注力し、一方で顧客サービスなど「人」を介するリアルな側面をいかに「効率化」できるかを重視した。
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ブランド戦略
2015.07.13
2013.02.08
2010.07.30
2015.07.27
2015.07.17
2020.04.24
2020.07.28
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。