いわゆる「ソーシャル・メディア」を通して、顧客が雲(クラウド)の中で自由に物申す時代、顧客が雲の中に入り、市場が見えなくなってしまった時代に、企業も雲の中に入り、顧客との対話を始めなければならない。今回は、アメリカの事例を紹介。
クラウド活動の先進者、ザッポス
最近、アメリカでも日本でも、「クラウド・コンピューティング」が毎日のように話題にのぼっている。その多くは、ウェブのネットワーク上(「向こう側」)に存在するリソースを活用してコンピューティングを行うという、企業主体の話に終始しているが、ここで着目したいのは、消費者の生活基盤が、SNSやブログ、ツイッターなどウェブのネットワーク上に、驚くべき速さ、そしてスケールで移行しているという、「市場のクラウド化」の話だ。
ウェブ・テクノロジーの進歩の恩恵を受けて、「自己表現の力」と「つながる力」が生活者に与えられた。上に述べたSNSやブログなどもいわゆる「クラウド」のテクノロジー・プラットフォームだが、これを利用して、生活者は、企業とは無関係に活発な交流や情報交換を行っている。つまり、顧客がクラウド(雲)の中に入ってしまった結果、企業からは見えなくなり、市場が不透明化してしまっているのだ。そこで、業界や業種、あるいは規模に関わらず、企業もクラウドの中に入り、顧客と対話していくことが求められている。
だが、これをうまく実践できている企業は、アメリカでもまだ数えるほどだ。
靴やアパレルを中心に取扱っているアメリカのネット通販会社、ザッポスは、先進的なコンタクトセンターの運営ばかりではなく、いわゆる「ソーシャル・メディア」を駆使して、クラウドの中の顧客とつながるための活動に早期から着手してきた。マイクロブログのツイッターの活用を今から1年半以上も前から会社ぐるみで推進してきた、アーリー・アダプターでもある。
目指すものは、パーソナル(個別)かつエモーショナル(感情的)なつながり
アメリカでは、TVの視聴率が最も高い「プライム・タイム(夜の7時から11時の間)」のTV広告費の相場は、三十秒あたり12万5,000ドル程度といわれている。
1999年以来10年の社史のうち、ザッポスは、ほんの数えるほどしかTV広告を利用してきていない。その代わり、常に、「WOM(口コミ)こそが最高のマーケティング媒体」と唱え、一年365日を通して、24時間休みなく運営されるコンタクトセンターと、クラウドの活動に投資してきた。
オペレーターが従うべき、「コール・スクリプト」もなく、対応時間に制限もないという、常識破りのコンタクトセンターがモットーとするのは、「個々の顧客と、パーソナル(個別)かつエモーショナルな(感情的な)つながりを築くこと」だ。
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ブランド戦略
2015.07.13
2013.02.08
2010.07.30
2015.07.27
2015.07.17
2020.04.24
2020.07.28
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。