顧客ロイヤルティの、「ロイヤルティ」って一体何を意味するのでしょう。世界最大のオーガニック/自然食スーパー、ホール・フーズ・マーケットの逸話に思うこと。
ホール・フーズ・マーケットの店舗も、床上2.5メートルの浸水という甚大な被害を被りました。店内の機器は全壊し、商品もすべて台無しになりました。貯蓄も、保険ももたない若いビジネスにとっては、これは事実上の倒産を意味しました。
惨状を目の前に愕然とするマッキーと従業員のもとに、日頃から店を贔屓(ひいき)にしていた顧客や隣人が集まってきました。そして、バケツやモップを片手に腕まくりをして、マッキーたちにこう呼びかけたのです。「くよくよしていないで、やるべきことをやろう。この店を復活させるんだ」
それから数週間にわたり、たくさんの顧客が店を訪れ、店舗の復興に力を貸してくれました。従業員たちも、大好きな仕事場を取り戻したい一心で無償で働きました。取引先の中には、つけで商品を供給してくれるところも出てきました。感謝の気持ちで一杯になりつつも、驚きを隠せず、ある日マッキーは掃除を手伝ってくれた顧客のひとりにこう尋ねました。
「何の見返りがあるわけでもないのに、なぜこんなことまでしてくれるんですか」
すると、その顧客はこう答えたといいます。
「ホール・フーズは私の生活の大切な一部だからですよ。ホール・フーズがない生活なんて考えられない。ホール・フーズがない町になんて住みたくはない」
こんなにまでホール・フーズを愛してくださるお客さんのために、なんとしてでもビジネスを再開して、あらゆる力と心を尽くしてお客さんの暮らしを良くする商売をしなくてはならない・・・。この言葉を聞いて、マッキーと従業員たちは志を新たにしたといいます。
繰り返しになりますが、「その人、国、企業、あるいは目的を熱烈に愛しているからこそ、そのためだったら一肌脱いでしまうこと」、それこそが「ロイヤルティ」であると私は思うのです。災害や人的ミスやその他の理由で会社が窮地に立たされた時、援護に駆けつけてくれるお客さんがどれだけいるでしょうか。非難の矢面に立たされた時、弁護にまわってくれるお客さんはいるでしょうか。それこそが、ロイヤルティの真の指標であるべきであり、ロイヤルティはお金では買えないのだ、ということを改めて実感させられたエピソードでした。
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成功要因
2013.02.01
2012.02.02
2020.02.17
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。