新年の祝いのムードもつかの間、アメリカの小売業界を脅かす過酷な現実。2013年は店舗小売業者にとって、浮くか、沈むか、正念場の年となる・・・。
そうしたスマホ・アプリや「ショールーミング」のニュースが大々的にメディアに取り上げられているがために、スマホを持っていない人、即ち、アプリを使って価格比較をしたことがない人でも、そういった報道を聞けば、「へえ、ネットの方が安いのか」という印象を受けるようになります。
つまり、「ショールーミング」のきっかけは「価格比較アプリ」というツールかもしれないが、「店舗離れ」の雪崩現象を起こしているのは「ネットの方が安い/便利だ/品物が豊富にある」という生活者意識の変化ではないかということです。「ショールーミング」など目新しい言葉が出てくると過剰なまでに騒ぎ立てるメディアもその責任の一端を担っているといえるでしょう。
しかし、考えてみれば、「ショールーミング」と言っているうちは、「ショールーム」としてお客さんに活用してもらっているということなのです。つまり、少なくとも顧客が門口をまたぎ、店内に入ってきているわけですから、この機会をものにできるか否かは店舗の実力次第ということになります。
私は、ショールーミングに対抗する最も有力なカギは第三の「体験」にあるのではないかと思っています。店舗小売業者は、「顧客が来店する意義」や「店舗でなければ提供できない価値」に着目し、それをベースにして具体的な戦略を考えていくべきだと思うのです。
「顧客がまた来たいと思うような店舗体験を創造するには?」ということを今いちど考えてみる。そうすると、行き着くところは、店舗で顧客に接する「人(社員)」がつくりだす感動、温かみ、人間味、エンターテイメントというところになってくると思います。
「グローサリー(食料雑貨品)はネット通販との競争があまりないカテゴリーなので指標にならない」という批判を恐れずに言えば、トレーダー・ジョーというアメリカのスーパーには「店舗のあるべき姿」として常に注目しています。猫も杓子もフェイスブックアカウントやツイッターと言っている時代に、この会社はフェイスブックもツイッターも持たないというロウテク・アプローチです。全米に360を超える店舗をもち、年商も85億ドル(推定)という大手チェーンでありながら、店舗に行けば店員と顧客の会話が飛び交う、まさに「ハイタッチ」なショッピング体験創造で熱烈なファンをつなぎとめている会社です。商品力に非常に優れた会社であることも否めませんが、顧客の「熱愛」の決め手はやはり接客だと思います。私も馴染みの店ですが、「これ買ったことある?おいしいのよ」と店員さんにものを薦められたり、逆に薦めたりという会話をいつも楽しんでいます。
電化製品量販店最大手のベスト・バイなどは、ショールーミングの打撃をまともに受け、先行きが心配されていますが、こういった店舗が起死回生を果たすためには、根本に立ち返って、「店舗だからできること」、「店舗にしかできないこと」を見つめなおし、店舗体験を大刷新することが望まれていると思います。
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市場変革
2013.01.09
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ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。