次々とベストセラーを飛ばし、一時は自らも出版業界に身をおいたアメリカのマーケティング・グル、セス・ゴーディンが、「もう、従来型の出版はしない」と宣言。その心は? そして、電子出版にかける夢は?
日本でも『パーミッション・マーケティング』や『「紫の牛」を売れ!』などの著書で知られるセス・ゴーディン。今日のアメリカで「マーケティング・グル」といえば、誰でも彼の名前を連想するというくらいの著名人だ。その彼が、8月23日付けのブログで、「もう、従来型の出版はしない」と宣言した。
セス・ゴーディンといえば、1999年に出版された『パーミッション・マーケティング』を皮切りに、12本のベストセラーを飛ばしてきた。それ以前には、彼自身、出版プロデューサーとして活躍していたこともあるから、いわば、「出版業界の中の人」であるわけだ。その彼の口から、「もう、従来型の出版はしない」という言葉を聞くのは、他の誰の発言とも比べ物にならないくらいの重みがある。
従来型の出版では、「著者の顧客は読者ではなく、出版社だ」とセスは説明する。どの本が出版されるかを決めるのは出版社であり、出版社のお目がねにかなわなければ、本が日の目を見ることはない。
従来型の出版は、「本という媒体と、複雑な流通構造を通じて、不特定多数の読者に著者の主張を届ける」ことには優れている。・・・これは、著者と読者が直接つながることが難しかった時代、読者の顔が見えなかった時代にはうまく働いた。でも、今はどうだろう。ウェブの普及のおかげで、著者が読者と直接つながることは、いとも簡単になった。
セス・ゴーディンのブログは、マーケティングという分野ではアメリカで最もよく読まれているブログである。「今の私には、『読者が誰か』ということがよくわかっている。読者と著者の間に何層もの隔たりをつくる従来型の出版の仕組みは、もはや、私(著者)にとっても、読者にとっても意味をなさない」とセスはブログに書く。
著者が読者とつながっていて、読者が「読みたいもの」を熟知している場合、なぜ、遠回りをして、出版社を中に入れる必要があるのか、というのが、セスの主張である。それは、著者のためにも、読者のためにもならない。
従来型の出版構造が抱える問題については、私も、『ザッポスの奇跡』の出版を巡ってさんざん苦渋を呑まされてきた。私としては、『ザッポスの奇跡』が語るテーマは、今の日本企業にとって非常に重要なテーマだと思っていたし、日本の読者の皆さんにも必ず役に立てていただける本だと思っていた。だが、日本における「ザッポス」という会社の知名度の低さがネックになり、「売れる本ではない」という理由でいろいろと回り道をさせられた挙句、最終的に共同出版という手段をとった。
次のページ著者と読者との距離を縮め、出版を民主化する
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
市場変革
2013.01.09
2010.12.17
2010.08.25
2009.11.18
2009.10.17
2020.05.15
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。