4月から調達・購買業務に関わるセミナーや企業向け研修、調達・購買部門改革に関する相談などが続き、改めて調達・購買業務の価値について考える機会が多かった数か月であった。特に印象に残っているのが、企業向け研修の場で伺った調達担当常務からの講話だ。
「貴方達がやっているのは『調達事務』であって『調達』ではない。」
その担当常務の方は、グループ企業などからも含めて集まった90名超の調達・購買担当者の方々に向かって、こうきっぱりと言い切った。面と向かっていきなり自分の仕事を否定され、そこに居合わせている方々は戸惑っているようであった。もしかしたら、「調達事務」と「調達」の違いが分からなかったのかもしれない。常務の意図は、決められた仕様で決められた取引先から見積を集めているだけであれば単なる「事務」であって「調達」ではない、それではわざわざ調達部門をプロセスに介在させる価値がないということを伝えたかったのだ。
私はその時に初めて「調達事務」という表現は耳にしたが、弊社でも調達・購買業務の価値は何かを常に考えているので、すぐにピンと来るものがあった。弊社では、調達・購買プロセスの中にある業務を価値を生む「価値業務」と価値を生まない「非価値業務」に分けている。そしてお客様には、調達・購買プロセスにある「非価値業務」に貴重な時間や人員を割かずに、「価値業務」にそれらを注ぐようにという話をしている。それと同じことを常務は仰っていたのだろう。
「価値のない『調達事務』ではなく価値を生む『調達』業務を行って下さい。」
これが常務のメッセージだ。ところが、これまでは会社から「調達事務」の仕事しか任されず、「調達」に必要な権限、リソース、教育も施されなかった調達・購買担当者にしてみれば、「調達事務」と「調達」の違いが分からなくても無理はない。この常務は外部から招聘されて来た方で、最近になって調達部門も管掌する様になり、この企業に調達・購買業務に対
する正しい価値観を植え付けようとされていたのだ。それが冒頭にある強いメッセージに表れている。
弊社が今回の研修を請け負ったのもこの流れを受けたものと思われるが、担当者との研修の企画打ち合わせ段階では、こうした背景情報まで見抜けなかった。研修のテーマは「取引交渉」というテクニカルなもので、一方ですぐに仕事のやり方ががらっと変わるものを求められていることに違和感を持ってはいたが、常務の求めているような意識変革を起こすような研修にしてほしかったのだろうとこの講話を伺って理解した。幸いなことに、この研修は二回構成にしていたので、次回はこの反省を踏まえて内容を構成していこうと考えている。
しかし、こうした変革はその企業に根付く文化、価値観の転換になるため、簡単なことではない。これは調達・購買部門のみの変革に留まらず、調達・購買部門への期待や役割を規定する経営者やその企業そのものの意識改革が必要になる。内部の人材ではなかなかそうしたことはできない。だから、この企業も外部から来たこの常務に調達部門を管掌させたのです。他の企業からも同種の相談を受けた事があるが、その時は調達部門があるにも関わらず、生産管理部のメンバーしか出てこず、不思議に思い、なぜ調達部門の方が本件に同席しないか伺った所、「彼らは手配しかしていない。ここで検討していることについてすべて手を打っていると答え、なぜできないかしか話をしないので彼らには任せられない。」というのが答えだった。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます