「社員第一、顧客第二」を唱え、目覚しい変革を遂げたインドのITアウトソーシング・サービス会社、HCLテクノロジー。ピラミッド型の組織をひっくり返すべく、CEOヴィニート・ナイアー氏がとった数々の方策は、多くの企業経営者が見落としがちな「企業変革のスイッチ」を指摘するものだ。
かのウォルマートも「オープン・ドア・ポリシー」を謳っていて、創設者であるサム・ウォルトンの時代からの伝統らしいが、サウスウエスト航空やザッポスとはかなりプロセスが異なり、意見や質問は必ず正式な命令系統に則って行われなくてはならない。つまり、意見や質問があったらまず行くべきは直属の上司のところであり、垣根を跳び越えてCEOや部門長にいきなり直訴することはできないということである。
組織が大きくなればなるほど社員の声がトップに届きにくくなるのが常だが、共に机を並べて働いているから、「声が聞こえている」と思ったらそれは間違いだ。たいていの職場は、信頼関係の破綻を根本的な問題として抱えている。毎日、顔を合わせているからといって、一体どれだけの社員が上司や同僚に「本音」で話せているだろうか。だからこそ、サーベイなどの仕組みは、安全な環境のもとで自由に物申す機会を社員に与えるのである。
『人は自分のしていることに情熱と責任を感じるとき、会社を変革できるだけでなく、自分自身をも変革できる』というナイアー氏の言葉は経営者としての私の心にも強く響いた。社員一人ひとりが、「自分の」会社であり、「自分が」会社を変えることができると信じた時、はかり知れない底力を発揮することができる。「市場縮小時代」などと言われるが、勝算ゼロの市場においても飛躍を続ける企業においては、社員が経営の主役なのである。社員の英知や情熱の邪魔をせず、社員がその責任と権限をまっとうする環境をつくること、それこそが経営者の仕事なのだと、同書を読んで改めて確信させられた。
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革新
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ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。