「社員第一、顧客第二」を唱え、目覚しい変革を遂げたインドのITアウトソーシング・サービス会社、HCLテクノロジー。ピラミッド型の組織をひっくり返すべく、CEOヴィニート・ナイアー氏がとった数々の方策は、多くの企業経営者が見落としがちな「企業変革のスイッチ」を指摘するものだ。
同じような逸話は、卓越した企業文化で知られるアメリカの航空会社、サウスウエスト航空の社史にも存在する。2001年の同時多発テロ以降、アメリカの航空業界を凄まじい不況が襲い、多くの航空会社が人員削減を余儀なくされた時、サウスウエスト航空は人を解雇せず、なおかつ赤字を出さなかった唯一の航空会社であった。同社の経営陣は、会社が深刻な経営難にあることを社員に開示した上で、人員削減は行わないと断固として宣言したが、社員はその誠意に応え、合計130万ドル相当の自主減俸を申し出たのである。会社の経営に参加する責任と権限を委ねられたとき、社員がいかに大きな力を発揮するかを物語る逸話である。
飛躍する会社は、社員の声を聴く会社
考えてみれば、苦境を乗り切り、飛躍する会社は、社員の声を聴く会社である。前述のサウスウエスト航空も然り。ある時、同社が米国航空業界標準の予約システムから締め出しを受けたことがあった。予約システムに登録されないということは、自動発券ができないということ。その不便さに、旅行代理店からサウスウエストに苦情が殺到した。創設者のハーブ・ケレハーは、早速この解決策について社員の意見を仰いだところ、のちに同社を有名にした「チケットレス・システム」が社員の声から生まれたという。それもそのはず。ハーブ・ケレハーをはじめ同社の経営陣は、常日頃から社員の声を奨励し、社員からのメールにはCEOであろうと一週間以内に答えるという習慣を実践していたらしい。このような姿勢が、社員のやる気と責任感を高め、自主的な価値創造活動へと社員を駆り立てていたのである。
かのザッポスも、社員の声を聴くことに関しては極めて貪欲である。ザッポスでは、略称『ハピネス・サーベイ』と呼ばれる社員意識調査を毎月行っている。社員の「幸福度」を測定するためのサーベイであり、質問は五問。三つの選択肢の中から一つを選ぶという簡単なもので、「五秒間でできる」というのが売りのポイントである。サーベイの集計結果は全社員にメール送信される。また、自由コメント欄もあり、社内の「幸福度」を向上させるための提案や改善点を自由に書き込める。寄せられた提案には、然るべき部門/部署/役職の担当者から漏れなく返答があるという。
また、ザッポスの場合、社員の声を聴く仕組みはサーベイだけに限らない。サウスウエスト航空と同様、社員の誰もが、CEOを含む経営陣の誰にでも直接メールを送り、意見を述べたり、質問をしたりすることができる。また、『なんでもきいてみよう』と題する社内ニュースレターがあり、社員から寄せられた質問と経営陣の回答が毎月全社員に送信される。さらに、ザッポスの壁のないオフィスでは、社員の誰もがCEOの席に赴き、「物申す」ことが可能である。
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ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。