前回、震災を理由にジャストインタイム生産(JIT)を見直し、在庫を積み増すのは止めた方が良いというお話をした。震災を機に、JITを止め、在庫を積み増すという誤った考えが喧伝されるのは何故だろう?マネジメントに携わる人間は、この問題にどう臨むべきだろう?
こうした思考を組織だってやるのが、BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)と言われているものだが、BCPであらゆる危機に対処できるというのは間違いだ。あらゆる危機にBCPを策定できるというのは、狭義のリスクマネジメントと同じ考え方で誤った非常に危険な前提だからだ。実際に、弊社のお客様からも、東日本大震災の際に、BCPは作成していたものの機能しなかったという声を幾つか聞いている。たとえば、携帯電話なども使えず、計画の中で役割を担っている多くの社員と連絡がつかず、計画そのものが最初から機能しなかったというものだ。
だからといって、BCPが役に立たないという訳ではない。実際に、震災時に危機の対処が早かった企業の多くが、実際にコミュニケーションが寸断されるような事態を想定しその際の各部門、各自の意思決定方法を含めたBCPを策定し、訓練も行っており、それに基づいて行動している。BCPが機能しなかった企業は、今回、機能しなかった部分を考慮して、計画およびBCPの訓練方法を見直せばよい。完璧な危機対処はできないが、こうした努力の積み重ね、ノウハウの蓄積が、個々の企業の危機回避や損害の抑制能力、復旧のスピードの大きな違いになって現れることは間違いない。
すべての危機を対処しようというのは人間の想像力からも、費用対効果的からも無理がある。それよりも、想定している危険、危機は何であり、何を想定から外しているか(腹を括っているか)を明確に自覚すること。次いで、小さな変化も捉えて、その想定しているもの、想定から外しているものの内訳を変えた方がいいかをコンスタントに見直すこと、そして、費用対効果を考慮した上で、すこしずつ想定している危機を拡大していくことが大切だ。
危機への対処のもう一つの方向性は、柔軟な組織づくりを心がけることだ。柔軟な組織とは、外部からの調達も含めて機能の組み換えが迅速に行える組織だ。たとえば、震災後、盛んに言われる製造拠点、調達先の分散はその一つ。理想を言えば、平時には効率を考えグローバルに最適配置されており、危機発生時に迅速に移管が行えるというものだが、何もない所に瞬時に生産、調達を移管するというのはほぼ不可能なので、少量でも予めそこで生産、調達している必要がある。何れにせよ、この場合、調達の役割が大きくなる。調達・購買で柔軟な組織づくりと言えば、やるやらないはともかくとして、場面々々に応じてサプライヤを切り替えらえる状態にあるということだ。これは何も単価の安いサプライヤにコロコロ切り替えるレートショッパーになれということではなく、切り替えねばならぬとなった時に果断にサプライヤの切り替えが行えるようにしておくということだ。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます