昔に比べ「管理職の力が強くなってきた」と感じたことはないだろうか。部下の採用、配置転換、リストラなど……いろいろなところで強権を振るい始めている。しかしこうした動きに対し、「危険な兆候」と懸念する声も出始めている。それは……? [吉田典史,Business Media 誠]
先日、JR東京駅からタクシーに乗った。そのとき、運転手と話したことは考えさせられるものだった。ここ数年、後部座席に座る、管理職と思われる 30代後半から40代の男性社員の態度が横柄だという。部下を人前でありながら平気で叱りつけたりするなど、管理職としてのマナーを心得ていない人が多いそうだ。
実は、これに近い話を人事コンサルタントたちからもよく聞く。彼らの話の趣旨は、次のようなものだ。いまの管理職層の多くは、1980年代半ばから1990年前後までのバブル時代に就職している。当時は、中堅の私立大学の卒業者でも、難関と言われた都市銀行に毎年数十人は入社していた。都市銀行 13行に計400~500人前後が就職するなど、相当に甘い時代だったのだ。
さらに、この世代は、90年代に20代~30代後半までの期間を過ごしている。この時期、多くの企業は深刻な不況のもと、社員研修などの教育費を大幅に削った。いまの40代は他の世代に比べ、あまり社員教育を受けていない。
そんな人たちが、いま、管理職をしているがゆえに、職場では次々と問題が起きているのではないかというのだ。
実際、ある金融機関の人事部では、「花の90年組」という言葉が使われている。1990年に入行した社員のレベルが他の年次の社員に比べて、低いからだ。それを皮肉って「花の90年組」という。90年入社の社員が就職活動をしていたのは、1989年の春から夏にかけてのこと。つまり、バブル期のピークなのである。
前述のコンサルタントはこう言う。
「この時代に極端ともいえる大量採用で、常識的には入ることが不可能な人たちが一気に一流企業に入社した。20年後にその採用戦略のあおりを受けて苦しんでいるのが、20代~30代前半の若手。実は、この世代の方が潜在能力は高い」
社員の自殺をめぐる争い
管理職の問題は後を絶たない。つい最近も、管理職層のマネジメント能力に問題があるのではないか、と思える裁判が一応の決着をみた。
報道によると、9月5日、東京高裁にて、従業員の自殺をめぐる賠償訴訟で和解が成立した。この労働事件は2005年3月、 運輸会社 の関連会社で働いていた知的障害をともなう自閉症の男性(当時46歳)が自殺したことに始まる。
遺族は、自殺の理由は上司から厳しい言葉を浴びせられたり、時給を減らされるなど、障害者への配慮を怠ったことにあたるとして、会社に6500万円の損害賠償を支払うように訴えていた。結局、会社側が一定の条件のもと、500万円を賠償することで和解が成立した。
次のページ管理職の権限を強くするのは「危険な兆候」
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2010.11.12
2010.12.06