企業も身の丈にあった買い物を

2010.09.22

経営・マネジメント

企業も身の丈にあった買い物を

中ノ森 清訓
株式会社 戦略調達 代表取締役社長

企業は創業に始まり、離陸、成長、安定と段階(ステージ)を踏んでいく。ステージが異なれば、経営の力点、手法も変わってくる。調達・購買も例外ではない。今回はそうした事例について紹介する。

複数のレストランチェーンを展開するエムグランドフーズサービス、その中核となっているステーキハンバーグ&サラダバーけんは現在100店舗を越えるが、店による内外装やテーブル、照明などがバラバラ。ある店の内壁は板張りで、別の店は白塗り。木製のいすを配した簡素なレイアウトもあれば、上質感のあるソファが並ぶ店もある。(出所:2010年9月8日 日本経済新聞 11面)

それは、同社が郊外ロードサイドの居抜き物件を中心として、新しい店舗の出店を行ってきたから。居抜きとは、飲食店物件の不動産取引で多く見られるものだが、退去する利用者の設備や家具、内装などをそのまま残し売買、賃貸するもの。

チェーン店の出店コスト抑制といえば、店舗設計、建築資材の標準化によるスケールメリットの追求と考えられがち。しかし、それが有効になるのは年間の新規出店数が100店を越えるような大企業になってから。

店舗デザインや内装などの統一によるブランドの構築も規模があってこそのもの。そもそも、ファーストフードと異なり、利用する機会、店舗が限定されているレストランで統一イメージを打ち出す必要があるだろうか。打ち出すならば、ハイエンドのイメージを打ち出した方がよく、こちらは大規模チェーンには向かない。

ブランドの構築に向けたデザインの統一は、店舗設計、デザインの徹底的な標準化を行わなくとも、使用ロゴ、看板、メニュー、カラー、オペレーションの統一で代替できる。

居抜きで入れば、退店・入店時の間で繰り返される解体・原状回復・建築・内外装工事がほとんどなくなる。居抜きを活用すると、新規の店舗開発の場合に比べ約1/3~1/5の1程度のコストで新規出店ができるといわれている、同社の場合、最初に居抜きで出店した店舗は、40坪のパスタチェーンのものであったが、開業当初は店舗開発費用に8,000万円投下していたとのこと。同社は居抜きで入ることにより、そのコストを1,500万円の費用で済ませた。少し前であれば、大手ファミリーレストランチェーンの東京近郊における1店舗あたりの出店費用は保証金や建築費など合計で1億円前後かかっていた。

同社が郊外ロードサイドに出店戦略を集中させているのにも訳がある。同社が設立された2006年当時は都内の賃料が高騰しており、都内では30坪の店舗の賃料が月60万円、保証金が10~20カ月、1,000万円の保証金を請求される物件も数多くあった。保証金は確かに退出時に戻ってくるが、その間1,000万円もの資金を寝かせることになる、特に、創業期でそんな資金の余裕のある企業はない。郊外のロードサイド物件であれば保証金はなく、敷金2、3カ月分で済む。こうした思い切った手段を取らなければ、これまで同社のようなベンチャー企業は、こうした新規出店費用が重荷になってロードサイドの大型店など持つことなどできなかった。

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中ノ森 清訓

株式会社 戦略調達 代表取締役社長

コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます

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