トヨタ自動車の人材育成に向けた残業解禁がある日の日経1面トップ記事を飾った。こんな当たり前のことがニュースになるのは、それはさすがトヨタ、日本へのインパクトの大きさからか。 そもそも一律残業禁止などおかしな話が出るのは、金融恐慌のせいだけではなく、企業の支出、コストに対する誤った考えがあるからではないか。今回はこの問題を採り上げる。
「トヨタ自動車が、ベテランや中堅社員が若手を指導できるよう、2009年5月まで上限を1ヶ月10時間、同年6月以降は原則禁止としていた事務・管理部門の残業の制限を撤廃した。(出所:2010年9月25日 日本経済新聞 1面)」
トヨタが残業を制限していたのは、金融危機後の業績悪化を受けた固定費削減のためとのこと。確かに残業時間を制限すれば、見た目の固定費は一時的に減る。しかし、仕事そのものがなくなった訳ではない。基本的には従業員のサービス残業が増えるか、必要な仕事がなされなくなるかの何れかだ。
この記事では、所定の時間に業務を終えなくてはならないベテランや中堅社員が若手を指導する余裕がなくなっていたことが、制限撤廃の要因として指摘されている。
「また、トヨタは今春から技術開発部門で、5人程度の部下を管理・指導する「係長職」を約20年ぶりに復活させた。組織のフラット化で減っていた現場の指導役を増やすのが狙い。(出所:日本経済新聞 同上)」
トヨタは2009年末から2010年初にかけて国内外で大規模リコールを行うなど、これまで絶対を誇っていたその品質管理の陰りが懸念されている。その要因の一つとして、ここ数年のグローバル化による急激な事業規模の拡大に、人材育成が十分に追いついていないことが挙げられていた。
こうした収益、コスト削減を過度に追求するあまり、必要な人材育成が行われなくなっており、それが会社のあちこちでひずみをきたしているとの懸念が、トヨタの人材育成への投資を後押ししているようだ。
人材、人材育成に投資するのは当たり前といえば当たり前のことなのだが、残業代、出張費、教育研修費などは業績低迷で真っ先に削られる項目の筆頭だ。反面、コスト削減は従業員のモチベーションを下げるのみで効果がないというまことしやかな議論もよくささやかれる。
実際には、こうした費用を削っても、オペレーションに支障が来たさないことが殆どであり、「予算がなければ仕事ができない」「こんな待遇、環境で仕事ができない」などと文句をいう社員に限ってたいした仕事をしていない。
企業のコスト削減を巡って、こうした行き当たりばったりの議論がまかり通るのは、コストの捉え方が間違っているからである。
税金や法定福利費など法律によって定められるものを除けば、そもそも、企業にはコストなんてものは存在しない。存在してはならない。企業のあらゆる支出は、事業で収益をあげるための投資でなければならない。
これは間接部門の人件費、経費にも当てはまる。間接部門といえども、企業の構成要素である以上、その機能は何らかの形で事業収益の計上に貢献していなければならない。次のページ「企業におけるあらゆる支出は投資であるべき。」
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます