小学館や角川書店などの出版大手が、これまでの慣行であった書店で売れ残った本の返品を受け付けない代わりに、書店の利幅を増やす書店への売り切りでの取引形態を導入します。一見、返品自由でなくなると買い手側にはデメリットばかりのようですが、本当は逆です。今回は、返品自由を止め、買取制の取引に移行する事が、買い手側の大きなメリットなるという事を見ていきます。
買い手側が返品自由を止め、買取に移行する最大のメリットは、品揃えの改善にあります。返品自由となると、とにかく商品を抱えておけば良いので、売れ筋の見極めや品揃えのあり方の学習に真剣になる事ができません。委託販売に頼った百貨店が衰退する一方で、お客様と向き合い、リスクを取って商品開発を行うユニクロの台頭が、リスクを取って品揃えに向き合う事の大切さを示す好例でしょう。
書籍流通では、放っておけば、著名作家などヒットしそうな書籍では、各書店が過大に仕入れ、結果として返品の山となる事を防ぐため、どの書店にどれだけ供給するかは、書店のこれまでの販売実績に基づき、取次店が決めています。売れそうだと思っても、これまでの実績がない書店では、希望通りの部数を仕入れられないのです。書店では、小売の基本である店頭の品揃えを、店側でコントロールできないのです。今回の買取制では、こうした状況が改善され、書店側で希望の数だけ仕入れることができるようになります、
なんだかんだ言って、何れの商品でも、実際に店頭に並べてみるまで、何がどれだけ売れるか分からないものです。また、売れ筋には地域差があります。何がどうして売れているのか。現在の売れ行きが地元のイベントなどによる一過性のものなのか、継続的に続くものなのか。そうした商品の売れ行きの裏にあるものを把握しているのは店頭であり、書籍のような非定番品について、一番正確な販売予測を立てられるのは、日々お客様と接している店舗です。
これまでリスクを取って仕入れを行ってきたことのない書店では、買取制に移行していく段階で、当然、多く仕入すぎてしまったり、売れ筋を見逃してしまう事もあるでしょう。そうした痛みがあるからこそ、そうした失敗を避けようと人は努力し、学習します。
店舗が買取制のリスクを負う上でもう一つ考えなければならないのが、価格決定権です。出版物の場合、店頭でも出版社が決めた小売価格での販売される再販制度となっています。買取制では、どうしても過剰仕入となるケースが出てきてしまいます。買取制で過剰在庫の処分に有効な手段の一つは値引き販売ですが、書籍流通ではこれが認められていません。小学館は、今回の買取制度で返品は受け付けませんが、書店の要請に応じて、定価の30%で買取に応じます。再販制度の見直しには時間が掛かるでしょうから、買取制を普及させる過渡的な措置として、導入する出版社のこうした対応は不可欠でしょう。仕入れリスクと店舗の価格決定権の関係は、コンビニエンスストア業界も、考えていかなければならない問題です。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
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