調達・購買業務はコスト削減額で測ってはいけない

2010.01.05

経営・マネジメント

調達・購買業務はコスト削減額で測ってはいけない

中ノ森 清訓
株式会社 戦略調達 代表取締役社長

新しい年を迎え、あなたも、調達・購買業務についても今年の目標設定を考えていらっしゃるかもしれません。その最たるものはコスト削減目標ではないでしょうか。実は、調達・購買業務の業績目標として、コスト削減額を掲げるのは、百害あって一利なしです。今回は、お客様とのやり取りの中で、そうした目標設定で行いがちな誤りの防止に役立ちそうなものが最近ありましたので、それをご紹介します。

コスト抑制額は、あなたも何となく感じているかもしれませんが、そのアクションを取らなかった時に想定される仮想のコストからの回避額のため、何を以って仮想のコストとするかで不毛な議論が起こります。不良率の前提や事故で供給停止などのリスクが顕在化した時の損害の数字をいじるだけで、抑制の前提となるコストを幾らでも膨らませる事ができます。

では、コスト削減額は、現在のコストからの削減額だから、間違いようがないかというとそんな事はありません。お客様が市況品について聞いてきたのは、コスト削減が市況によるものか、担当者の努力によるものか分けたかったからでしょう。これは市況品だけの問題ではありません。特注品であっても、原材料やサプライヤの稼動率などの市況の影響によって下がった部分やサプライヤの経営努力でコストが下がった部分と、担当者の努力でコスト低減につながった部分を分ける事はできません。

これらの影響を除外しようとその時の初回見積から幾ら下がったかをコスト削減額とするという会社もあるようですが、そのような会社では、初回からサプライヤが適正な価格の提示を行うと、「もっと高めの見積をまず持って来い!」と付き返されるというのは、管理者や経営者は気づいていないかもしれませんが、現場レベルでは、日常茶飯事です。

こうした使えない指標の定義を巡る議論や、その結果に一喜一憂し、その改善に右往左往しても、適正なモノを適正な価格で適正なサプライヤから買えませんし、貴社のキャッシュフローに実のあるインパクトも得られません。しかし、調達・購買部門が果たすべき責務は正にこれらの点ではないでしょうか。

目指すべき結果とリンクしていない指標は、パフォーマンス評価にも、担当者、部門のマネジメントにも使えません。実際には、こうした指標は、使えないどころか、担当者、部門のエネルギーを浪費させ、時には、サプライヤと結託して高い見積を持ってこさせたり、そこまでの悪意がないにしても、評価項目にない品質評価やリスク管理の対策で手を抜くなど、担当者や部門を望まない方向に、誘導してしまいます。

これは成果主義の弊害として上げられている点と似ていますが、これらの問題は、成果主義の弊害ではなく、成果の定義ができていない事、つまりマネジメントの問題と、弊社では考えています。正しい目標設定をするのは、マネジメントの仕事の一つです。

調達・購買業務で正しい目標設定ができない企業が多いのは、これまで多くの企業経営者や調達・購買業務管理者の方々と話をしてきた結果、これらの業務の特性を理解していないのが大きな要因の一つと弊社では考えています。

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中ノ森 清訓

株式会社 戦略調達 代表取締役社長

コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます

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