2009.10.21
■『羽根のない扇風機』 というブレイクスルー
小野寺 洋
株式会社JIMOS 通販広告研究所 所長/ビジネスディレクター
『羽根のない扇風機』を知っていますか? およそ100年にわたって変化のなかった扇風機市場に衝撃を与える「お客様インサイト」とは何なのでしょうか?
■100年の眠りから『扇風機』が目覚めるか!?
数日前、『羽根のない扇風機』という大発明に大変衝撃を受けた。
「吸引力の変わらない唯一の掃除機」の広告でおなじみのダイソン社が発表した羽根のない扇風機『Air Multiplier(エアマルチプライアー)』がそれだ。
さて、日本での扇風機の歴史を紐解くと、国産の第1号扇風機発売は明治27年(1894年)と言われている。以降、歴史の中で、例えば羽根の形が変わったり、指が入る大きさだった羽根カバーの網目が細かくなって子どもの指でも入らないように改善されたり、あるいはリモコンが付いたり、自然の風に近いゆらぎを起こすためのマイコン制御が付いたりするなど、小さな改良は重ねられてきたわけだが、扇風機の仕組み自体が大きく変わることはなかった。
『エアマルチプライアー』は、それから100年間も大きな変化の無かった“羽根付き”扇風機に、まさに大きな“風穴”を開けた画期的商品。「こだわり」と「改善」の繰り返しが生んだ賜なのだ。願わくは、これが夏に発表されていたら、プロモーション活動としては最高のパフォーマンスを納めたのだろうが、それはこの商品の素晴らしさに免じて許すことにしよう。
▼ナルホドなるほど! ココがポイント!▼
「現状の改善を行う」みたいなことは、どこの企業でも叫ばれていますし、ビジネス書でも「改善」をテーマにしたものは数多く出版されています。でもそれを実践しているかというと、「??」という方も多いのではないでしょうか?
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これを実践できない理由の一つに、お客様が必要とする「本当の改善課題(改善目的)」を見つけられていないことが挙げられます。
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実はこの「改善課題」、結構、“灯台もと暗し”という状態が多いのも事実です。「改善」と聞くと、何か大きな変化をもたらさないといけないように考えがちですが、それは必ずしも「画期的な」「新しい」「大きな」提案でなくてもよいのです。例えば、商品や広告の改善で大切なのは【お客様の欲求にどれだけ近づけるか】という至って単純かつ基本的なことだったりします。
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扇風機以外の例でいえば、数十年も新商品が生まれていなかった分野に「乾電池」がありました。ここに新しい風を吹き込んだのが、パナソニックのアルカリ乾電池「エボルタ」です。当時の電池市場といえば、既に多くのアルカリ電池が存在し、特に新しいものを望んでいるとは思えない成熟した市場状況だったのですが、お客様の最も根本的な欲求である「長持ちすること」を追求したエボルタは世界一長持ちする電池としてギネス世界記録にも認定され、この分野で大ヒットとなりました。
このお客様欲求の発見は、特に画期的でもなく、新しくもなく、大きな提案でもありません。しかし、この「つい見逃してしまいがち」な潜在的なお客様の欲求(インサイト)に気づくことができるかどうかの差が、改善を行えるかどうかの差につながるのです。
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扇風機の話に戻りますが、小さい頃、親によく「扇風機の風に当たりすぎると体調を壊しやすい」といわれました。いま思えば、これは、自然の風と異なる扇風機の風のゆらぎ(羽根が生み出すスクリュー状のムラのある風)は、少なからず人体に悪影響を与えるということだったのだと思います。
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ダイソン社は、このムラのある風を、ムラのない風(=人体に良い風)に変換するという発想とともに、扇風機の最も象徴的でありながら、掃除の面倒さや不快な風の原因ともなり得る羽根の「改善」に取り組んだというわけです。扇風機の風は、なんとなく体に悪そう。そんなお客様のインサイトを見逃さないところに、企業としてのセンスや強さを感じます。
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実際、ダイソン社の歴史を見ると、「こだわること」と「改良し続けること」自体が、社風ともいえる環境になっています。また、サイクロン掃除機に続いて、ハンドドライヤー(日本では未発売)、そして『エアマルチプライアー』と続く、「空気を操る」ことに対するこだわりは、ダイソン社がこの分野の専門家であることを強く印象づけています。
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小野寺 洋
株式会社JIMOS 通販広告研究所 所長/ビジネスディレクター
「効く広告」の研究とプロデュース、講演活動等を生業としています。 【略歴】 大学卒業後、出版社に入社。お客様と商品の“接点”開発に目覚める。 2005年より、株式会社JIMOSにて自社通販ノウハウを元にしたダイレクトマーケティング支援事業を行う。大手代理店にはない独自のアイディアや成功法則を武器に、広告をプロデュース。教育、食品、美容など、数多くの分野で成功を収める。 1973年佐賀県生まれ。佐賀大学理工学部卒。