大相撲の経済学(6)「八百長」の経済学

2008.10.04

ライフ・ソーシャル

大相撲の経済学(6)「八百長」の経済学

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

「週刊現代」の八百長疑惑を報じた記事を巡る 「大相撲八百長訴訟」 の弁論(08/10/03)において、 講談社側の証人として出廷した元小結の板井圭介氏は、 次のように証言しています。

『現役時代、八百長に関与した。横綱、大関なら当時で
 70~80万円を払って下位の力士に頼んでいた』

『下位の力士同士であれば、1回勝ったら、次は負ける。
 それが相撲界のルール』

板井氏の発言の真偽はさておき、

『大相撲の経済学』

では、八百長を行うインセンティブ(動機)、メリットが、
どのような場合において発生する可能性があるかを検討しています。
(八百長が実際に行われているどうかを検討したものではありません)

同書では、数式を用いて説明してあるのですが、
難しくなるので詳細は本を読んでいただくとして、
ここではポイントのみ紹介しておきます。

そもそも、「経済学の基本理論」にしたがえば、
八百長の取引が成立するためには、その取引によって

正味の利益増加分(純利益)

が発生しなければなりません。

八百長が生み出す利益とは、
ひとつには、負けることによって失うはずの地位や所得を
維持できることです。

また、勝ち負けを確実にすることで、
ガチンコ(真剣)勝負のリスクを回避できることです。

さて、八百長を実際に行うとしたら
取引の方法には坂井氏が証言したように次の2つの方法があります。

1.金銭の授受を行う
2.星を交換する(現在と将来の勝ち星を交換)

金銭の授受が行われる場合について詳しく説明しましょう。

『大相撲の経済学』では、
八百長をもちかけ、金銭を渡す力士を「渡川」、
もらう側を「受取山」と名づけて八百長の成立条件を
具体的に検討しています。

なお、前提として、渡川、受取山の両者は巡業などを通じて
お互いの実力を熟知していて、ガチンコ勝負した際にどの位の割合で
渡川が受取山に勝つかもわかっていることにします。

この前提において、渡川が受取山に八百長を持ちかけるためには、
ガチンコで勝った場合の利益よりも、八百長で確実な勝ち星を得る方
が利益が多くなければなりません。(まあ、当然のことですけど)

一方、受取山が八百長話をOKする条件は、
負けることによって失う損失よりも、
渡川からもらうお金が多くなければなりませんよね。

ですから、八百長が成立しやすくなるのは、
渡川にとってこの一番で勝つことの利益が十分に大きく、
一方、受取山にとって負けることの損失が小さい場合です。

例えば千秋楽において、十両最下位の渡川は、

7勝7敗

で勝ち越しがかかっているとします。

一方、十両十枚目の受取山は、

8勝6敗

で既に勝ち越しを決めています。

このような状況での渡川と受取山の一番で、
もし渡川が負けると幕下に転落。

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これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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