大相撲の経済学(3)現役力士の報酬制度

2008.09.26

ライフ・ソーシャル

大相撲の経済学(3)現役力士の報酬制度

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

大相撲界の報酬制度もまた、経済合理性の観点から見ると、 実に巧妙に練り上げられたものだと言えます。

『大相撲の経済学』によれば、
昭和54年に初土俵を踏み、以来幕内に93場所在位し、
平成14年秋場所後に引退した「寺尾」の場合、
引退時の褒賞金は

230円

でした。

これは、現在の倍率(4,000倍)で換算すると

92万円

ですね。

長年幕内に在位していた寺尾は、
引退する頃には、本場所ごとに90万円程度の褒賞金
を月給にプラスしてもらっていたわけです。

一方、『大相撲の経済学』が出版された2003年の時点
での横綱「朝青龍」の褒賞金は、

180円

程度でした。

当時はまだ、角界入りしてから日が浅かったため、
報奨金の積み立てが少なかったのですね。

これは、実質報酬額(x4,000)としては

72万円

であり、寺尾よりも20万円低い!

すなわち、朝青龍は当時、月給は横綱ですから当然トップ、
ところが、上乗せ分の「力士褒賞金」については、
長年現役を務めることで大相撲界に貢献してきた寺尾の方が
多かったのです。

このように、

「月額給与」

は、ランクに応じて増減しますので、
より上位のランクを目指すインセンティブとして
働いきますが、

「力士褒賞金」

は、10両以上の力士として現役に長くとどまることを
動機付けていると言えるわけです。

なお、上記の基本的な報酬以外に、
場所ごとの成果に応じてもらえる特別手当(優勝賞金など)や、
企業などが広告宣伝目的で出す「懸賞金」などの報酬もあります。

以上の仕組み、給料の出ない幕下以下の力士にとっては
厳しいものですが、10両以上になれる資質を持ち、かつ
不断の努力を続けることのできる力士にとっては、
とてもありがたいものです。

というのも、力士の多くは中卒で相撲部屋に入ります。

最近は高卒、大卒の力士の割合も増えてきているそうですが、
学歴というか基礎的な学力を考慮すると、相撲界から一般企業
に転進するのはなかなか大変です。

また、相撲部屋という特殊な環境の中で鍛えられ、
相撲という特殊なスポーツ競技で勝てるようになるために
一般人とはかけ離れた

「巨大な体躯」

を意図的に作り上げます。

この点でも、相撲界を離れた後の職業選択の幅が、
どうしても狭いものになってしまうわけです。

要するにつぶしがあまりきかない。

そこで、短期的な成果に基づく純粋な成果報酬ではなく、
一定以上の実力を保って現役を続けることがプラスになるような、
現在の年功的要素の強い報酬制度に落ち着いたと考えられます。

なお、現役時代に活躍し、相応の成績を収めた力士は、
引退後も「年寄」になることで安定した収入(1千万円以上!)
を65歳の定年まで得ることができます。

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松尾 順

有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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