ウォルマートとデルが手を組んで、サービス・ビジネスに参入。そんなニュースを聞いて、「顧客主導型」の激流を改めて実感・・・。
ウォルマートとデルがアライアンスを組み、「ソリューション・センター・バイ・デル」というサービスの展開を始める、というニュースが先月の半ばごろにアメリカで報じられました。日本のメディアでもちらほら取り上げられていたので、耳にした方もいるかもしれません。類似サービスとしては、米国家電リテール首位のベスト・バイが展開している「Geek Squad(ギーク・スクアッド)」が有名ですが、店内キオスクでの対応は勿論のこと、顧客宅にテクニシャンを派遣し、PCやオーディオ機器の修理、設置などのサービスを提供してくれるというものです。
近年、ウォルマートは、家電及び電化製品カテゴリーにアグレッシブに注力してきました。得意の低価格攻勢で、カテゴリー・キラー各社の市場シェアを侵食しダメージを与えてきたのです。今後の狙いは、フラット・スクリーンTVなど高額商品の販売を強化し、同市場により深く食い込んでいくことですが、販売後の「ソリューション・サービス」の欠落が、ウォルマートの中核顧客層である「低価格志向」のお客さんから、その外へとアピールを広げていくにあたって、深刻な妨げになってきました。本格派ホームシアターに投資するようなお客さんは、よほどのオタクでもない限り、設置サービスのない店で高額品を買ったりしないからです。
今回、デルとのアライアンスによるソリューション・ビジネスの展開は、この障壁を取り除いて、家電・電化製品カテゴリーにおける「シリアスなプレイヤー」としてウォルマートの地位を確立する上での足掛かりになる、というのが、ウォルマートの目算です。かたやデルにとっては、ローカルに顔の見える「サービス・プレゼンス」を築くことで、新しいタイプの顧客層を掴むきっかけにもなるというわけでしょう。これまでは、「通販で買うと、故障が起こったとき困るわ・・・」とデルを敬遠してきたお客さんも少なくないからです。
考えてみると、昨今におけるデル・モデルの変貌は、ますます激しさを増して流通市場を襲っている「顧客主導型」への波を象徴するものでもあります。「モノ」をいかに安く売るか、というサプライ・チェーン・イノベーションを中核として80年代に台頭し、ぐんぐん勢力を伸ばしてきたデルは、ここにきて、顧客への提供価値の再定義を迫られているのだと思います。今のデルに、モノ売りとしての競争力はない、といっても過言ではないでしょう。PCなんてどの会社の製品を買ってもほとんど同じ、という世の中になってしまったのです。消費者の価値観は、「モノ」を安く買ってなんぼ、というところから、「買った後にどう使うのか」、ひいては、「それを使うことで、自分の暮らしがどう楽になるのか」というところに移ってきています。勝負の土俵が、「顧客エクスペリエンス」へと移ったということです。
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サービス経営
2009.07.23
2008.09.13
2008.08.12
2020.03.05
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。