生き残った「負け犬」 【2】

2008.07.18

経営・マネジメント

生き残った「負け犬」 【2】

猪熊 篤史

事業の成功と失敗を分ける境界について引き続き考えてみたい。

生き残った「負け犬」とは、業界における客観的な位置づけ(ポジショニング)ではない。また、企業における「強み」、「弱み」、「機会」、「脅威」などの分析に基づいた主観的な戦略でもない。それは心理的な状態である。

企業は様々な脅威や圧力にさらされる。直接的な競合他社との競争、代替的な製品・サービスとの潜在的な競争、従業員の退職、経営陣に対するヘッドハンティング、供給業者の値上げ、顧客からの低価格、高品質、高付加価値の要求などを受けて企業は様々な方向に揺れ動く。経営者の「迷い」もこれらの脅威や圧力を増幅する原因となる。

しかし、何時しか、嵐がやむように、どちらの方向に進むのも自由な状態が拓けることがある。事業を拡大するのも自由、どんな製品・サービスを提供するのかも自由、また、事業から撤退するのも自由になる。当然、そのような選択も前述のような脅威や圧力から逃れることは出来ないが、それらは「痛み」ではなくて「空気」のような企業が存在する環境に必要な要素となる。

そのような状態は、事業家の「覚悟」によってもたらされるものである。また、外部からの理解、容認、尊重によって生まれるものでもある。あるいは、「負け犬」に噛みつかれることに対する配慮もあるのかも知れない。

ある意味で、生き残った「負け犬」は無敵である。

一定の収益基準などによって自動的に解散を強いられる場合などを除いて、なんとか生き残った「負け犬」には、高収益で魅力的なビジネスに再度挑戦する機会、体制を立て直して十分な収益を獲得する機会、あるいは、一定の収益を稼ぎながら高成長を実現する機会などが拓ける。

買収者を買収し返すことができるのも「生き残った負け犬」である。

優良企業と呼ばれる企業の多くは「生き残った負け犬」という心理状況を確実に経験しているようである。

創業期なのか、転換期なのか、あるいは、事業家の人生の一時期なのか、決まった形はないようだが、企業発展の歴史において「生き残った負け犬」のステージは避けて通ることのできない重要な機会となる。

【V.スピリット No.77より】

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